敗色濃厚、海洋の文明はなぜ衰退・没落するのか

● 海洋国家と大陸国家

 歴史的に見ると、ギリシャ、ヴェネツィア、ポルトガル、イギリスといった海洋の文明がいずれも衰退し、没落した。今、アメリカも退潮中。

 海洋の貿易は、単純に「点」と「点」の連結に過ぎず、流動性が高い。しかし、陸上の貿易は、途中にある無数の「点」の連結によって「線」となり、さらに無数の線の交差によって「面」が形成される。海洋貿易は、「輸送」という単一目的しか持たないものの、陸上貿易は巻き込み効果があって「経済」全体の増幅・増量につながり、物理的流動性が低い。

 航海という経済的な輸送手段が発明されることにより、海上の覇権、文明は次々と移り変わってきた。それによって陸地、特に内陸や奥地が取り残された。何よりも、地球文明の生まれ故郷であるユーラシア大陸の存在意義が再浮上しつつある。それが東ヨーロッパ、中央アジア、シベリア、そして中国である。

 NATOの東方拡張も、習近平の西方拡張(一帯一路)も、もちろん過去の日本による中国侵略も、そのためだった。陸上権益の争奪戦である。

● 海洋国家は敗色濃厚

 海洋国家といえば、アングロサクソン諸国、植民地侵略、資源の略奪、海上軍事力、貿易・海運といったキーワードが自ずとついてくる。そして何よりも、資本主義とその集大成であるグローバル化が海洋国家の繁栄を裏付けていると言っても過言ではない。言い換えれば、グローバル化をなくして海洋国家は生き残れない。

 中国・習近平政権の「一帯一路」は、ユーラシア大陸文明の復権をもって、海洋国家の既得権益に挑む一大構想・取り組みである。米欧は自ら認めたように、中国とのデカップリングは物理的にあり得ない。その逆、あまり語られていないが、実は中国はすでに脱・米欧西側諸国に動き出している。

 その一環としては、「窮台政策」――経済的つながり(取引)の薄弱化によって台湾を困窮させる政策が取られつつある。海洋国家の台湾は、経済規模が小さく米欧アングロサクソン資本主義国家よりも基盤が脆弱だ。その唯一の強みといえば、半導体。しかし、TSMCの米国移転によって台湾はすでに空洞化され、捨て駒としての様相が浮き彫りになった。

 日本も然り。海洋国家として、貿易総量の4分1が中国に依存しているだけに、もはや軍事よりも経済戦だけで総崩れする。もう1つの国フィリピンも例に漏れず海洋国家であり、南シナ海での対中闘争で米国に利用されている。気が付けば、もっとも親米とされるアジアの国々はすべて海洋国家、しかも第一列島線の構成国だ。

 韓国だけは少し様子が違う。大陸国家と海洋国家という二重のアイデンティティに翻弄され、政権の交替により、親中と親米の間で揺れている。尹錫悦政権はたまたま究極の親米親日派である。

 日台韓比という第一列島線構成国以外のアジア諸国は、軒並み米国と一線を画し、経済面では中国にべったりだ。私が住むマレーシアでは日々のメディア情報をみても、イデオロギー的な反中傾向はほぼ確認できない。日本国内のメディアはむしろ異常としか言いようがない。

 単純化してしまえば、昨今の時代は、海洋国家が命運を賭けて大陸国家と戦う時代である。ただ、海洋国家の勝算は極微だ。いや、敗色濃厚といったほうがいい。

● アメリカの論理的破綻

 海洋国家の衰退は、経済面だけでなく、何よりも自ら信奉するイデオロギー(民主制と独裁制の対立)の論理的破綻から見出される。アメリカの姿勢をみてみよう。

 民主制であってもハンガリーやセルビアのような、米国に追随しない国は、糾弾される。米人権監視団体「フリーダム・ハウス(Freedom House)」は、ハンガリー、セルビア、モンテネグロで民主主義が前例のない規模で後退しており、もはや民主主義国とはいえないとする報告書を発表し、厳しく批判した。

 一方、独裁制であってもサウジアラビアのような、米国に追随する国は、良しとする。サウジについては、米ドルをペトロダラー(オイルマネー)にする代わりに、王室の独裁を米国が護るという取引条件が成立した。しかし、最近原油の人民元建て取引に傾くサウジには、米国は「中国と独裁同盟を組むな」と警告を発し、独裁を問題にする姿勢を見せ始めた。

 この通り、「民主 vs 独裁」というイデオロギーの構図は虚構であり、真っ赤な嘘だ。米国の言うことを聞くか聞かないか、米国の利益に合致するかしないか、それが唯一の判断基準だ。
 

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