無用の長物か、踏んだり蹴ったり走り出す北京・上海高鉄

 結局、時速300キロしか出せない。といっても、一時、350キロや400キロと宣伝された京滬高鉄(北京・上海新幹線、7月1日運行開始)は、ふたを開けてみると、こんなもんかと。

 それだけではない。沿線に危険物の製造工場が点在しているとか、一部地盤沈下の危険性とか、試運転中の未報道事故とか、関係者の「私は乗らない」宣言まで、中国国内各紙が報じている。

 海外からの技術輸入で、物理的に時速400キロまで出すことが出来ても、安全スペックで300キロという事実を無視して、「超高速」を求める中国の役人。安全よりも、自分の政績と出世しか頭にない。鉄道部劉志軍元部長(大臣)が不正・腐敗容疑で失脚したのが、不幸中の幸いだ。さもなければ、真相が暴露されたのだろうか。

 北京・上海、高鉄で5時間もかかる。ヨーロッパは鉄道大陸だが、どこの国も中央駅はだいたい、街のど真ん中にある。オフィス街から徒歩で列車に乗車することができる場合も多い。中国の場合、上海虹橋駅が中心部から離れているといったら、北京南駅はもっと、とんでもない街の外れにある。私は北京南駅から、朝陽区の三元橋オフィス街までタクシーで、渋滞で最高1時間40分かかったときもあった。市内交通と待ち時間も入れると、北京・上海間は最速でも6時間~7時間かかる。飛行機の場合、5時間ほどだから、1時間~2時間遅延の発生率と運賃差額を加味しても、高鉄のメリットが少ない。

 しかも、高鉄は日中走るので、ほぼ1日潰れることになる。それに比べると、寝台列車のほうがよほど効率がよい。北京・上海間はビジネス客が多いことを考えると、この高鉄のコスト・パフォーマンスが良いとは言えない。

 高鉄のため、多くの在来線(非高速)が犠牲になった。速度よりも経済性を求める、ビジネス客以外の乗客にとって、高鉄はほとんど意味をもたないどころか、自分たちの利益まで損なわれているのである。そのうち、安い長距離バスに客が流れ、バス会社が歓声を上げるかもしれない。

 まだまだある。ビジネス客が集中する上海・南京間と北京・天津間には、すでに高鉄が出来ている。特に上海・南京間では、二重高鉄という巨大な無駄が生じている。

 北京・上海高鉄ははたして必要だろうか。予算があったら、飛行機の遅延解消や滑走路の増設に投じたほうがよほど経済効果が高いのではないか。いや、視点を変えれば、経済の競争メカニズムが作動して、高鉄が飛行機遅延を解消する有効な手段になるかもしれない。ならば、高鉄のメリットだ

 ベトナムでは、ホーチミンからハノイまで新幹線を作ろうと、ほぼ案が固まったところで、ベトナム国会で否決された。日本の新幹線は、東京と福岡の間に重要な大都市がたくさんあるが、ベトナムはホーチミンとハノイの間に重要な都市がほとんどない。だから、新幹線よりも飛行機でいいではないかということになった。

 国会否決。同じ社会主義国家の中国では、これは可能だろうか。

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