ここがおかしい、日航機脱出劇を美談にするな!

 1月2日夕刻、羽田空港のC滑走路上で起きた日航機と海保機の接触事故。5人の海上保安庁職員の尊い命が失われた。

● 2つの事実

 事実1、海保機が滑走路に無断進入し、滑走路上で40秒も滞留したこと。
 事実2、日航機パイロットも管制官も、終始滑走路上の海保機を視認できなかったこと。

 ゴーアラウンド(着陸のやり直し)に十分な余裕があったはず。日航機のパイロットが滑走路上の海保機を「視認できなかった」と話している。これは、「視認しなかったのか」「視認を行ったにもかかわらず、視認できなかったのか」。報道では、「日本航空は、パイロットが海保機を確認できなかった理由は現時点ではわかっていない」としている。

 この言い方だと、普通なら視認できたはずだということになる。検証をやったらいいじゃないか。同じ時間帯、同じ天候、同じ場所に、同型機を視認できるかを検証すればいい。私は直感的に、日本航空のパイロットに視認を怠った疑いがあると思っている。補足だが、視認の可能性についてChatGPTに聞いてみた。以下の答えだ。

 「一般的に、着陸する飛行機のパイロットは滑走路上にある離陸しようとする飛行機を視認できます。航空管制やパイロット自身の注意が集中しており、滑走路上に他の飛行機がいる場合は、通常、それを視認することが期待されます。ただし、悪天候や視界不良の場合、視認性が低下する可能性があります」

● JAL絶賛への違和感

 非常時に乗客を安全脱出させるのが、乗務員の仕事。全員が逃げ切ったから、凄い凄いと絶賛するのはおかしくないのか?これは、プロスペクト理論の「参照点依存症」で説明できる。通常、これだけ大炎上し機体がほぼ全焼した事故なら、数人ないし数十人の死者が出(参照点)てもおかしくないが、今回はたまたま死者ゼロだった。参照点との比較があっての感覚的な、情緒的な結論にすぎない。

 飛行機が停止してから脱出開始するまでは、6分以上もかかっていた。CAからは「席に戻って」「姿勢を低くして」以外の指示と状況説明は何もない。

 正直にいって、場合によって爆発が早まっていれば、大惨事になっていた。単に運が良かったともいえる。なので、日航のCAに絶賛の嵐というのは、おかしい。

 CAの情報共有と意思決定形成の時間は、長すぎる。「冷静な判断」は、場合によっては乗客のパニックを招くリスク(外国人の多い国際線なら状況が一変していたかも)があるからだ。冷静な判断よりも、咄嗟の直感が大切なときがある。今回、幸いにも18分という全員の脱出が成功したから、後付的な賛辞にまとめることができたのだろう。

 「大丈夫」「落ち着いて」「安心してください」といった言葉に素直に信じ、従う日本人は、良い意味で冷静、悪い意味で言えば、幼稚。いや、幼稚という表現は、必ずしも正しくない。機内に響き渡る子供の無邪気な叫び声、「早く出してください」。それこそ、人間が自己保存のための本能である。

 CAの「〇番ドアは開きません」よりも、まず、1つだけでも、開けられるドアを開けること。「ドアが開かない」ことは、乗客にパニックを煽るようなものだ。

 成功は、幸運が常に伴う。しかし、幸運は常に訪れるとは限らない。

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