
● 北方領土を失う
「日本を含むどの国とも領土をめぐる論争はもはや存在しない」。――ロシアのラブロフ外相が明言。ロシア外務省は2023年12月18日、ラブロフ外相がロシア国営の「第1チャンネル」に応じたインタビューを映像とともに公開した。領土問題が存在しないから、交渉もないときっぱり。
北方四島の処理について、以下4つのシナリオがあった。
1. 最善=四島一括返還
2. 次善=二島返還
3. 次悪=交渉継続
4. 最悪=交渉打ち切り
日本は二島返還という次善のチャンスを逃した。さらにウクライナ戦争で完全にロシアを敵に回し、次悪の交渉継続の可能性も打ち消され、ついに最悪の境地に陥った。現状を見る限り、日本はすでに北方四島を失ったと言っても過言ではない。日本が選んだのは、「All or Nothing」という愚かなゼロサムゲームだった。
私たち経営コンサルの場合、基本的に最善たるものを実務的に無視している。実務では、最悪を回避し、次悪を次善に持っていければ、成功とする。何もないより、何か少しでもあったほうがいいに決まっている。とりあえず足掛かりを得て後日チャンスを狙ってじわじわと食い込むほうが賢明である。総取りに一点張りでは往々にしてすべてを失うことになる。
北方四島について、ロシアが日本との交渉を打ち切ったのは、もう1つの理由がある。それは、中国と広域シベリア開発の交渉を始めたからだ。そのなかにはもちろん、北方四島が含まれている。中国が第一列島線を手に入れたうえで、千島列島・サハリンを含む広域シベリアの開発に着手し、最終的に北極航路を使って、欧州へのアクセスを得る。つまり、ユーラシア大陸の経済を掌握することだ。
● 北極航路を失いかねない
学界の研究結果によれば、温暖化が進むと、氷で閉ざされていた北極海を普通の船でも通れるようになる。現在は、ヨーロッパから船で中国や日本に向かうならば、まずスエズ運河を通過して、インド洋を渡り、マラッカ海峡を通ってやってくる。しかし、その南回りルートよりも、ヨーロッパから北極海を通る北回りルートを使うと、中国や日本にくる航行距離が4割ほど短くなる。海運におけるコスト的な優位性が明らかである。
シンガポールはマレー半島の先端にある人口わずか500人の漁村だった。そこを英国が南回りルートのハブ港として開発したため、繁栄を極め、アジア一の都市国家へと発展した。将来は北回りルートが使われると、貨物船が最初に到着するのは、ロシアのウラジオストクか東京。その地政学的な強みを最大限に生かせれば、アジア物流の最上流に立てる。
しかし、中国はすでに手を出した。ウクライナ戦争で中露の関係が緊密化し、ロシアはついに2023年5月、163年ぶりに、ウラジオストク港を中国に開放した。ウラジオストックは、中国語漢字音訳名が「符拉迪沃斯托克」だが、元々中国の領土だった(中国語名「海参崴」)。しかし、中国はあえて領土問題に触れようとせず、とりあえずウラジオストク港の「使用権」を取得した。狙いは明らかだ。
南回りルートは、数多くの国を通り、複雑な当事国の利害関係が絡んでいるが、北回りルートは、ほぼロシアの1か国のみ。つまり、このままいけば、北回りルートは実質的に中露連合のコントロール下に置かれる。そうしたなか、東京港はウラジオストク港と競争できるのだろうか。さらにウラジオストクは広大な中国市場に直結するだけに、その優位性は言うまでもない。
日本が失うのは、北方領土だけではないはずだ。





