ベランダ潰しの中国人、価値観や美学の相違か

 3月下旬の上海出張中に、「ゴン太と一緒に歩いた道をたどる、我が子を偲ぶ上海の旅」という旧居再訪のツアーを実施した。

「法華苑」のロビーは当時のまま

 2000年8月から10年間住んだ「法華苑」を14年ぶりに訪れてみると、少し驚いた。丁寧に修繕が施されていないこともあって、タイルが剝がれたり、床に穴ができていたり、建物の老朽化をより一層目立たせた。当時外国人向けだったホテル式のサービス・コンドミニアムが、今やすっかり現地人のローカル住宅棟と化した。

ベランダの室内化

 もっとも驚いたのは、外観。見上げるとほとんどのベランダが部屋にリフォームされてしまった。このコンドミニアムの英語名は、「Versailles(ベルサイユ)」。中国語の「法華苑」も「フレンチ的な中華」という意味があって、フランスもどきの広い中庭や各ユニットに配置された広いベランダが魅力的だった。

 ところが、せっかくのベランダをなぜ部屋にリフォームするのだろうか。実はここだけではない。中国各地では広くみられる現象だ。増床、容積率の拡張で部屋を広くする主旨はわかるが、その分内外の接点となるベランダという貴重なスペースを失う。なんともったいないことだ。

 マレーシアにある私の自宅では、室内のダイニングルームをほとんど使わず、朝のコーヒーは寝室のベランダで飲み、食事は庭に接するデッキで食べている。生活スペースについては、私はむしろ室内の空間を減らし、その分を室外あるいはデッキやベランダといった中間スペースにシフトしたいくらいだ。

 西洋建築でのデッキやベランダに似ているが、日本建築には、縁側という独特の構造がある。内でもなければ外でもないという曖昧さが日本独特の文化にもつながっているようだ。縁側には、夏の暑さと冬の寒さを和らげるという効果があり、夕涼みをしたり、お月見をしたりといった季節の移り変わりを楽しむ情緒溢れる場ともなっているだけに、素晴らしい。

 価値観や美学の相違もあるが、せっかくのベランダを潰して室内化するという中国人の生活スタイルは、私にはまったく理解できない。理解しようとも思わない。

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