解決済みの問題も、解決できない問題も、それを解決しようとしてはいけない。
昨日の慰安婦問題における日韓合意を見ての率直な感想だ。具体的な分析や論説は各紙をはじめ一通り揃っているので「蒸し返し」はしない。合意を一言で評するなら、「文脈を歪めた賭け」である。
まず、「文脈の歪み」。朝日新聞の慰安婦誤報や河野談話に対する安倍政権が提示した文脈から著しく逸脱している。その核心となる「軍の関与」を認めることについて、「強制連行」ではなく「衛生管理」といったマネジメント面の関与を主張してもいかに無力か。少なくとも世論に与える印象では文脈の歪みが否めない。それは日韓関係に対し、爆弾にタイムーを取り付けて、設定ボタンを韓国に引き渡したようなものだ。そのほかにも、書面化された条約協定の未締結、慰安婦像撤去の担保やユネスコ慰安婦遺産申請の不参加確約の不在など瑕疵が多数残されている。総じて合意は現時点では評価できない。
次に、「賭け」について。現時点の失敗作といっても、その効果さえよければ評価してよいという考察もあるだろう。ここは三つに分けて考える必要がある。
一つ目、日韓関係。今後しばらくの間ないし朴政権の次期政権以降も韓国がこの「口約束」をしっかり紳士的に守ってくれ、慰安婦問題に本当に歴史的終止符が打たれるのなら、今回の合意は画期的な傑作ともいえるだろう。さあ、結果はどうであろう。
二つ目、韓中関係(日米韓同盟関係)。親中一辺倒の韓国を中国から引き離し、日米韓同盟に復帰させる懐柔策として合意を位置付けるのなら、これからの韓中関係から目が離せない。南シナ海問題では、韓国は終始「沈黙が金」という姿勢に徹してきたが、これからその明確な意思表示(中国批判)が見られるかどうかが見所だ。ただ、この問題は日韓合意によるのではなく、韓国のTPP参加という枠組みを作って基本的に米韓間の合意事項として解決するべきだったのであろう。その辺、日本は頭を下げては金を出す。アメリカに利用されたといえなくはない。
三つ目、改憲問題。今回の日韓合意は、安倍政権による左派、リベラル派の取り込み、支持層増やしには一定の効果があるだろう。野党各党が反対する材料にはならないからだ。現時支持の声が大半であった。今後数か月の経過を見守りたい。それが安倍支持率の急増につながり、さらに来夏(2016年)の参院選、あるいは衆参ダブル選に自民党がダントツの優勢で大勝し、憲法改正の最終目的達成に漕ぎ着けられれば、それは今回の日韓合意はまさに歴史的「賭け」の勝利として大きく評価されるのであろう。
私は個人的に、この「賭け」には悲観的である。