英国のEU離脱、錯綜した利害関係に負けた紳士の矜持

 英国のEU離脱。世界にどんな衝撃を与えても、民主主義の手続の結果であって正義である。3つの視点がある――。英国人とEUの利害関係、英国とEUの利害関係、そして民主主義の手続問題である。

160614-1145-Cameron Highland-農業研究試験場キャメロン高原の花(2016年6月14日撮影)

 「貧富を足して2で割ったら損するのが富。強弱を足して2で割ったら損するのが強」。少し乱暴だが、この「平均法貧弱化」の原理だ。共同体自身の無謀な増殖、特に21世紀に入ってからの第5次EU拡張が無謀だった。

 カード会社がプラチナカードを貧乏学生に濫発して会員数を増やすようなものだ。それで全体的条件が悪化し、金持ち会員に迷惑がかかってそれが度を過ぎれば、彼らは「棲分け」を求めて逃げ出す。せいぜい、EUは準加盟といった下級レベルを設けるべきだった。

 「欧州」という地理的枠組みに囚われる加盟条件の前提に、大きな問題があった。もちろん、ASEANは同様な問題を抱えている。ミャンマーはかなり無理している以上、更なる西への拡張はやめるべきだ。ただ、EUに比べるとASEANは国数が少なく、通貨の統一もなく、緩やかな結合なのでその分まだマシだ。

 TPPはそういう意味で面白い仕組みだ。入会資格がないはずだったベトナムをあえて、政治的に共同体に取り込む。いささか老獪だが、必要な戦略であった。この際、いっそう英国にTPP参加の勧誘をかけたらどうでしょうか。

 といっても、英国全体的・長期的国益からいえば、EUから得るものが多く、EU離脱は決して得策ではない。そこで国民ベースの個別意思をどのように一般意思として反映させるか、キャメロン首相が取った国民投票という「直接民主」の手法が致命傷となった。2014年に「やってしまった」スコットランド独立住民投票も、手続としては政治的過ちと言わざるを得ない。ただ今回はついに、「やってしまった」末に「やられてしまった」

 紳士的過ぎた政治は、通用しない世界だ。

 毛沢東の政治は面白い。反対されそうな事項は記名投票で決め、賛成される確信のある事項は無記名投票で決議し、どっちか分からない事項の場合は挙手表決で決めると。

 香港問題でも結局、あのサッチャー首相が老獪な鄧小平氏に負けてしまったわけだ。大英の宰相として、紳士の矜持と叡智も必要だか、老獪な政治学にはもう少し謙虚に取り組む必要があるように思える。

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