<KL>「松」のみのうなぎ屋さん、刺身や寿司や天ぷらならある

 日曜(10月6日)コンサートの後、デサスリハタマスに移動。本日の夕食は、うなぎ屋「誠」で食べる。マレーシア唯一、日本産の活鰻を使う貴重な店である。結論から言おう。料理の品質は高い。ただ、現状のままだと、経営は長く続かないだろうと、私が見ている。


 まず、鰻の話をしよう。静岡産の活鰻。これは贅沢。ただ、価格はマレーシア現地相場ではかなり高目なので、味見で半身しか注文しない。もちろん、白焼き。鰻は身の厚みがなく痩せていて、脂の乗りも少ない。やや貧弱そうに見えるが、味は素晴らしい。気になることだが、マレーシア人(華人を想定)にはこの価格・コストパフォーマンスで認めてもらえるか。富裕層客だって相場観があるわけだから。

 日本から長旅ではるばるとこの南国にやってくる鰻は、道中の苦労もあってやや痩せていても致し方ない。物流コストも相当かかっているのだから、日本より割高感があっても当然だ。よって、私は文句をいうつもりはない。納得だ。ただ、どうせ食べるなら、今度日本に帰ったときたらふく食べたほうがいいと、ひそかに思った。

(上)鰻くりから焼き、(下)鰻骨せんべい

 鰻系列のメニューは素晴らしい。鰻くりから焼き、鰻骨せんべい、鰻胆焼き、鰻天ぷら、うまき、どれも素晴らしい。日本人シェフがやっているだけに、技は一流。鰻系列メニューは、価格が居酒屋感覚で設定されているので、本番鰻に比べると割安感がある。酒のつまみには最高だが、飲む習慣のないマレーシア人に合うかどうかは分からない。

鰻胆焼き

 冒頭に「うなぎ屋」と書いたが、それは日本人感覚で、鰻といえば、専門店。刺身や寿司を出されたら、怪しさ満点で客が逃げる。しかし、ここはマレーシア、専門店には人気が出ない。日本料理のフルバージョンをやらないと、客が来ない。この常識をよく知っているようで、この店も鰻以外に刺身から、天ぷら、寿司、そして居酒屋メニューまですべてカバーしている。

鰻天ぷら

 仕入れだけでも大変。材料の在庫管理や調理マニュアルが加わると、日本人シェフがいないと、現地スタッフだけでのオペレーションはほぼ不可能。当然ながら、駐在日本人シェフの人件費も馬鹿にならない。このオペレーションでは疲弊化しないのだろうか、他人ながら心配してしまう。「誠」のすぐ近くにある焼肉繁盛店「韓日館」は、肉メニューの一本に集約。客が自分で焼いてくれるので、大した調理人も不要。現状ではほぼ現地人によって運営されている。両者を比べると、収益性の差が一目瞭然。

うまき

 最後に言及したいのは、目玉商品の鰻メニューの種類。「誠」では、1種類だけ(蒲焼き・白焼きの選択OK)。

 ビジネススクールで教えられるマーケティング科目には、かならず価格設定の話が出てくる。まず性能が良く、価格も高い順からA、B、Cの順で並べた同一の商品を用意する。一定人数の消費者に対して、各ランク商品の購入意志を確認すると、ほぼ、A=2割、B=6割、C=2割という割合になるという。性能・価格が真ん中のBが過半を占める。

店内

 日本国内のうなぎ屋さんの場合、うな重には松、竹、梅とある。それはつまり、上記のA、B、Cに相当する。ほとんどの客は真ん中の「竹」を選ぶわけだ。「松」はぜいたくだが高すぎ、かといって「梅」を頼むのは何となく格好悪い。そういう心理が働く。いわゆる「松竹梅商法」が必要だ。

 しかし、「誠」は、1種類の鰻メニューしかない。うなぎ屋さんに行って、「松」の1種類しかないとなると、どうしますか。それは困ったものだ。良い店であるから、長く経営を続けてほしい。そのために、収益性を上げないとかなり厳しい。

 最後に蛇足だが、生け簀をなぜ設けないのか。活鰻を売りにするなら、生け簀ほどいい宣伝ツールはない……。

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