武器を持つことと信頼関係を作ること、中村哲医師の死に学ぶもの

 アフガニスタンで人道支援と復興に携わってきた医師の中村哲氏が銃撃されて死亡した。中村氏と長年の親交があった歌手の加藤登紀子氏のインタビュー(2019年12月6日付、NHK Web特集『中村哲さん 知られざる“無垢な” 素顔』)にこんな一節があった――。

 「やっぱり武器を持つよりも人々と信頼関係が生まれることの方が何より大事で、それが自分の身を守ってくれる」

 このくだりは、論理的破綻を露呈した。中村氏の死は何よりも、その否定になる。「武器をもつ」ことと、「信頼関係を作る」ことを対置するのが非論理的だからである。両者は矛盾しないし、二択ではない。むしろ補完関係にある。

 「武器を持てば、信頼関係が作れない」という結論にはならなければ、「武器を持たなければ、信頼関係が作れる」という必然性も存在しない。さらに、「信頼関係さえあれば、身を守ってくれるのか」という問いにも同様の回答が出る。唯一の結論は、「武器を持たないよりも、持った方が身が守れる確率が上がる」にほかならない。

 武器は使うために持つものではない。武器は使わないために持つものであって、身を守るためにあるものである。身すら守れないのなら、信頼関係どころか、人間関係すら存在しない。死んだら、終わりだよ。

 中村氏の死は悲しいが、その死に日本人は何を学んだのか。先の大戦で、日本人が間違えたのは、武器の持ち方ではなく、武器の使い方だった。この本質を見落としてはいけない。

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