【Wedge】米台国交回復決議案可決、国民党の「変節」と「赤狩り」時代の到来

 驚いた。『米台国交回復を推進する』『中国共産党に対抗するよう米国の援助を求める』という2本の決議案が10月6日、台湾立法院(議会)本会議に提出され、全会一致で可決された。驚いたのは、法案そのものでなく、筋金入りの親中党派とされていた最大野党、国民党から提出されたことである。国民党は従来の親中立場を放棄し、与党民進党と足並みを揃えるだけでなく、蔡英文政権に対し米国との外交関係回復を「積極的に推進」するよう求めたのである。何があったのだろうか。

● 「反中」の「中」とは?

 「反中」が世界的潮流になったのである。

 米国の大手世論調査専門機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が10月6日に発表した世界規模の世論調査報告によると、多くの先進国における反中感情は近年ますます強まり、この1年で歴代最悪を記録した。

 同調査によると、反中感情を持つ14か国とその割合は、高い順番から日本(86%)、スウェーデン(85%)、豪州(81%)、デンマーク・韓国(75%)、英国(74%)、米国・カナダ・オランダ(73%)、ドイツ・ベルギー(71%)、フランス(70%)、スペイン(63%)、イタリア(62%)となっている。また、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、イタリア、韓国、豪州、カナダの9か国の反中感情は、同機関が調査を始めてからの15年間で、過去最悪となった。

 中国に対して好感をもたない、否定的で、あるいは「反中」。では、その「中国」とは何を指しているのか。我々が普段使っている言葉の定義をしっかり規定することが大変重要だ。ピュー社の調査結果をみると、日本が世界一の「反中」国家になっている。漢字を使い、中国と同じ文化源流をもつ日本人がまさかそうした文化的意味で中国を否定しているとは思えない。

 しかも、同じ中華文化を共有している台湾や香港、その他の華人文化圏に対して、日本人が決して否定的ではないし、むしろ相互の好感度が高い。だとすれば、唯一の説明として、日本人が反感を抱いているのは、中国人・華人でもなければ、広義的な文化圏の意味における中国や中華でもなく、中国本土を支配している中国共産党にほかならない。さらに、「近年反中感情が強まり、過去1年で歴代最悪を記録した」ということも、中国共産党政権の内外政策や国際社会における姿勢の変化に由来したものではないかと思われる。

 ここのところ、米国の対中姿勢に明らかな変化があるとすれば、その1つは称呼だ。「中国」や「中国人民」と切り離して「CCP(中国共産党)」という名を使って批判している。ポンペオ米国務長官は7月23日、カリフォルニア州のリチャード・ニクソン図書館で行われた演説の中で、「中国共産党の最大の嘘は、それが14億の中国人民を代表していることだ」と指摘した。それはそうだ。いくら与党であっても自民党すなわち日本という人はいない。だから、「中国」と「中国共産党」をしっかり区別する必要がある。

 つまり、「反中国共産党」が世界的潮流になったのである。そんな中で米国の民主党も共和党と足並みを揃えて、対中強硬姿勢に徹している。それだけでなく、時には両党がお互いにどちらが中国にきつく当たれるかを競い合いさえしている。「反中国共産党」が米国内においてはすでに超党派の「コモンセンス」になっているわけだ。

 一方、台湾では、対中強硬路線を持つ与党・民主進歩党(民進党)と親中派で最大野党の国民党という二大政党が戦ってきた。世界が急激に変わるなか、台湾のこの政治構図が奇異でさえある。今年1月の台湾総統選で、国民党の公認候補として出馬し、現職の蔡英文総統に大敗した韓国瑜・高雄市長は後日、リコール(罷免)投票で職を追われた。反中に大きく傾いた台湾国内の民意に答えられずに、国民党は大やけどしてきた。

● 悪臭を放つ沼に生まれた「親中派」

 中国共産党に中国大陸から追い出された国民党はなぜ、親中なのか。

 戦後の国共内戦で毛沢東率いる中国共産党に敗れて1949年に台湾へ移った蒋介石は反共だった。当時の国民党は、中国共産党を匪賊扱いで「共匪」と呼んで、大陸反攻を国是とする反共政党だった。大陸反攻を国是としたのも、台湾はあくまでも仮住まいでいずれ中国大陸を奪還し、正統政権として全土支配する意志があったからだ。蒋経国総統時代になっても、中国共産党とは「接触しない、交渉しない、妥協しない」という「三不政策」が基本方針であった。

 蒋介石がその著作『蘇俄在中国(ソ連が中国にあり)』に警告を発した。「共産党と交渉するいかなる政治家も国家も、自ら墓穴を掘るも同然。……交渉はいつまでも結果が出ず、引き伸ばし戦術は共産党の一種の作戦方法だ」。「三不政策」だけでなく、昨今トランプの「対話をしない」「棲み分けする」、つまり米中デカップリング政策も、共産党を知り尽くした蒋介石の理論を土台にしている。

 変化が生じ始めたのは80年代後半。台湾と大陸の通商・経済交流が徐々に拡大していく。国民党と共産党のイデオロギーにおける本質的な相違を棚上げして経済的利益を先行させた。その結果、経済の中国依存が進み、中国大陸をなくして台湾は生きて行けない段階にまで至ったのである。これは何も台湾に限った話ではなく、日本も欧米も同様といえる。

 問題は、「中国依存」の恩恵が広く全国民に行き渡らなかったことである。中国共産党政権の「統一戦線」は決して、相手国の一般国民を対象にしているわけではない。政財界のいわゆるキーパーソンを味方につける手法が取られるため、結果的に一部の特権階層が利益を手にしただけで、全体的国益が軽視・無視されてきたのである。

 トランプ政権の下では、「ドレイン・ザ・スワンプ」という標語が打ち出された。「スワンプ」とは、悪臭を放つ沼のことだ。腐敗した穢い黄濁な泥水が溜まっている。その中に蛭やトカゲや毒蛇がうじゃうじゃにょろにょろと這い回って棲息している。そこで排水溝やバキュームカーのような排水設備(ドレイン)を用いて汚水を抜き取り、排出させることだ。

 そうすると、いよいよ穢い沼底に棲息していた蛭やトカゲや毒蛇が姿を現し、これらを太陽の日差しに当てて天日干しにして日光消毒を行い、すべて殺してしまうということだ。泥沼の傍で、トランプがバキュームカーで泥水を抜き取っているという政治風刺画がある。チャイナマネーによって汚染されたワシントンやウォール街の既得権益層にトランプがターゲットを絞った。

 皮肉にも、自由民主主義国家の政財界が社会主義独裁国家によって汚染された。それは社会主義や共産主義に赤化されるのではなく、資本主義制度下で増殖・変異した「唯物的」な拝金主義ウイルスが巧妙に利用されたのである。このメカニズムは長きにわたりグローバリゼーションという大義名分の下で温存されてきた。誰もが気付かなかった。気付こうとしなかった。気付いても口に出して言えなかった。

● 日台連携、「赤狩り」時代の先を見据えて

 台湾でも、「ドレイン・ザ・スワンプ」キャンペーンの機運が高まっている。そこで、親中本家の国民党はこのままいけば、政権奪取が夢のまた夢だけでなく、そのうち泥水を抜き取られた沼底から蛭やトカゲが姿を現し、「赤狩り」に遭遇したところで、党が沈没しかねない。そうした危機感に駆られて、この際、思い切って方向転換しようと決心したのではないだろうか――親共から反共へと180度の方向転換。

 とはいっても、国民党内は決して一枚岩ではない。既得権益層がおとなしくこの大転換についていけるのか。ぶつぶつ文句を言いながらも、いざ議決になれば、賛成票を投じざるを得なかった。『米台国交回復を推進する』『中国共産党に対抗するよう米国の援助を求める』という2本の決議案が全会一致で可決されたことは、まさに「ドレイン・ザ・スワンプ」キャンペーン、つまり「赤狩り」時代の到来を意味する。

 国民党にとってはすべて悪い話ではない。なんといっても台湾に中華民国を移し、根を下ろしたときからの本流与党であり、豊富な「人」「財」の資源をもっている。基本的な立場を「反中国共産党」に切り替えたところで、むしろ重荷を下ろしての原点回帰といえる。ここからは民進党との戦いを本格化させ、政権奪還に挑むわけだ。

 いや、それだけではない。

 米台国交回復は決して机上の空論ではない。拙稿『米台国交樹立も視野に、トランプ対中闘争の5つのシナリオ』『米台国交樹立の落とし所、台湾海峡戦争になるのか?』にも書いたとおり、トランプは本気で検討しているはずだ。米台国交が回復すれば、中国共産党政権が発狂する。

 様々なシナリオが描かれるなか、「反中国共産党」の潮流が勢いを増し、その先に中国共産党政権の崩壊・交替があるかもしれない。そうなれば、蒋介石が夢見ていた「大陸反攻」が単なる夢ではなくなり、実現する可能性が出てくる。いざ大陸に民主主義の政体ができた時点で、国民党が民主主義国家運営のノウハウや豊富な党内人材を生かせば、与党としての貫禄を世界中に見せつける。そうした可能性も出てくる。

 目先の利益よりも長期的利益に着目し、より大きなビジョンを掲げる。実は日本も同じ状況に置かれている。中国共産党に取り込まれて商売上の利益を得てきた既得権益層には、その利益が白であれ、グレーであれ、あるいは黒であれ、いよいよリセットする時がやってきた。原点に立ち返り、日本国家の長期的利益を見据えて、台湾とも連携しながら、新たな一歩を踏み出そうではないか。

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