食い倒れムアール(9)~光と影、雑想いろいろ

<前回>

 ムアールは観光の街ではない。いわゆる名所のようなスポットがほとんどないからだ。観光客にとっての名所はつまり、記念写真の1枚や2枚が撮れて、背景にランドマークが収まっていれば、ここにきたぞというエビデンスができるわけだ。エビデンスが一番重要だ。

夕日を浴びるムアール川

 しかし、ムアールの街にはこのようなエビデンスとなる素材が極端に少ない。車で一般道路を走って1時間もかからない隣の街マラッカは、世界に知られる海峡の名を冠した名城で、街丸ごとがユネスコ世界文化遺産に登録されている。だから、観光客という観光客は当たり前のようにマラッカに奪われる。

ムアールの街並み、百歳以上の建物があちこち

 観光とは、光を観るのであって、影や闇を観るのではない。私は正直、ユネスコのような国際機関は大嫌いだ。利権の塊だからだ。文化遺産に登録されれば、黙っても観光客がやってくる。だから、登録に絡む利権からは腐敗や堕落が生まれ、人間社会を蝕む。観光産業もこれに便乗し、「文化遺産」の看板を掲げて集客する。特に日本人は権威に弱いので、すぐに落とされる。

 文化遺産を貶すつもりはまったくない。遺産登録されるものとされないものの間に、どこまではっきりした線引きがあるのか。ムアールのような「影」あるいは「闇」に愛情を抱いてしまう私のような人間は、よく言えばマニアックだが、場合によっては変わり者や異端扱いにされてもおかしくない。

ムアールの宿泊先、トレーダーズホテル

 世界は、メインストリーム(主流)がパワーを持った以上、傍流には光が当てられることなく、影と化する。より低いリスクでより高い勝率を得るためにも、主流入りが必要だ。エスタブリッシュメントは当然、主流から生まれ、社会の上層に集結し、やがて既得権益層、いわゆる特権階層となり、下層階級を支配する。

ムアール川がマラッカ海峡に流れ込む

 このような社会構造からは、格差が生まれる。どんな社会にも格差は存在するが、格差が解消可能かどうかが重要なポイントだ。つまり、階層やグループ間を行き来するような流動性があるかどうかだ。資本主義の自由市場メカニズムは流動性を保障するものであり、アメリカンドリームはまさにその表れである。

 しかし、昨今の世界では、グローバル化すればするほど、格差が固定する。特に米国や日本のような先進国では、グローバル化の勝ち組と負け組が固定し、しかも底辺が確実に広がっている。その構造はすでに脱資本主義的であり、社会主義モデルに近づきつつある。

 資本主義のフィードアウト社会主義のフェードイン。今回の米国大統領選でその進行形が明らかになった。

<終わり>

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