うま味調味料と化学調味料、そして「便利」の代償

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 野生動物は幸せだ。獲物を獲ったり、飢えに耐えたりすることもあるが、加工食品を食べずに済む。人間は利便性を手に入れる代わりに、天然食体系を喪失したのだ。トレードオフではあるが。

 最近、うま味調味料という言葉をよく耳にする。「化学調味料」と言ったところで、慌てて「うま味調味料」に訂正するアナウンサーもいる(2022年2月7日にTBS系生放送「ラヴィット!」・山本アナ)くらいで、「化学調味料」は「放送禁止用語」になったようだ。

 どう違うの?うま味調味料とは、要は化学調味料のことだろう。「化学」というイメージが悪いから、うま味調味料と言い換えられるだけではないか。言葉が変わっても、成分もつくり方も変わらない。

 本物の旨みは基本的に調味料に頼らない。

 うま味調味料とは、人工的に作り出された代物以外のなにものでもない。どうしてもいうなら、「人工うまみ調味料」といったところではないだろうか。和食がユネスコ無形文化遺産に登録された。和食のエッセンスである「うま味(UMAMI)」は人工的に製造されているのだと、それだけのことだ。

 化学調味料を含めて、加工食品を忌避する健康志向は、食品業者のビジネスを直撃する。当然、彼たちは「安全性が確保されている」ことを主張するだろう。そういうところで議論しても仕方がない。結果的に、「加工食品を食べるのと食べないのと、どっちがより健康か?」という問いにそれぞれの答えを用意すれば済むことだ。

 我が家では、犬猫の食事まで、すべて手作り食にしている。市販のペットフードも同じく加工食品だ。あのゴロゴロした褐色粒は工業製品以外のなにものでもない。野生動物と違って、飼い犬猫は食事が確保されている代わりに、人工食を食べさせられるというのもトレードオフである。

 カラフルな袋やパッケージに包まれる加工食品は、私の言葉だと、工業製品だ。工業製品を食べるか農産品を食べるかの選択権は消費者にあるとはいえ、現代社会では農産品へのアクセスがどんどん難しくなり、コストも割高になっている。

 私が住むマレーシアでは、幸い農・水産品に恵まれている。「コロナのおかげ」で我が家では、多くの農園・農家・漁師や卸売業者と直取引するようになった。

 何よりも、コンビニには無縁である。コンビニエンスストアの中国語は、「便利店」という。現代社会の産業は基本的に「便利」というキーワードに立脚している。しかし、われわれは「便利」を手に入れながらも、様々な代償を支払わされている。

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