【世界経済評論IMPACT】戦争とカネ

 戦争にはお金がかかる。ゼレンスキーからは請求書が発行された。

 「とりあえずビール」という感覚で、当座の財政補填(ウクライナ政府運営のため)だけで毎月70億ドル、毎月ですよ。そのうえ、武器弾薬・軍事援助、さらに戦後復興再建には6000億ドル、その他諸々、しかも戦争が長引けば長引くほど費用は膨らむ。

 1年の戦争で計算すれば、少なくとも1兆ドルの費用(多分足りない)。支援国のシンパで、割当額はバイデンが鉛筆舐め舐めして決めるだろう。日本は1割負担だとしても、1000億ドル。国民一人10万円なり。4人家族だと40万円をウクライナのために払うことになる。

 日本でもウクライナの支援には日本国民の血税を使うわけだ。みんなが喜んでお金を出すのか。ニュースサイトの投稿欄をみると、一気にゼレンスキーの悪口が始まった。

 利益が絡んでくると、話は違う。英国やEUは結局のところ、天然ガスをルーブルで買うし、制裁破りをする。米国も含めてお金はケチるだろう。自分の利益に関わってきたら、誰もが同じだ。善悪の問題ではない。

 カネの切れ目は縁の切れ目。

 私が住む小国マレーシアは、ロシア金融システムへの加入を検討し、ロシア・エアロフロート航空のサンクトペテルブルク・モスクワとクアラルンプールを結ぶ直行便の開設を言い出し(4月23日付MalayMail)、さらに半導体分野でロシアを支援するとも明言した(4月25日付インドDigitnews)。

 国際政治はまず利益だ。マレーシアは明らかに、「反制裁」派で、ロシアの友好国になっている。日米いわく「国際社会」とは違う、2つ目の国際社会がちゃんと存在しているわけだ。どちらも利益目当て。

 ゼレンスキーにもそれなりの論理がある——。「アメリカはウクライナ戦争のお陰で軍需産業が大儲けし、何よりも莫大なロシア資産を凍結・没収できた。そのお金を山分けするのは当然だろう。ウクライナはアメリカのために死者を出しているし、国を壊しているわけだから」。

 ウクライナン戦争下の欧米露経済を比較してみよう。

 まず、ロシア。ウクライナ戦争開戦当時、西側の予測——「ロシアは欧米の全面制裁を受け経済が破綻し、GDPは少なくとも15%減、国内の不満が噴出し、プーチンは失脚するだろう」。その手の予想は、完全に外れた。

 現状はどうだろう。ルーブルは戦前レベルに戻り、強い通貨になった。ロシアは2月下旬以降、少なくとも650億ドル分の天然ガスや石油を輸出し、儲かっている。常態だったインフレも特段と悪化しているわけではない。西側メディアでさえ、データだけは捏造できない。5月7日付けのエコノミスト誌記事「ロシア経済が立ち直りつつある」は「制裁の影響が限定的」と認めざるを得ない。

 次に、欧米をみてみよう。ハイパーインフレ直前、アメリカの経済成長率は-1.4%でスタグフレーションの惨状である。2021年の米国の貿易赤字は初めて1兆784億ドルを超え、国内総生産(GDP)のほぼ5%に相当する。ドルベースでは過去最高を記録。国債は30兆ドルに達している。

 バイデン政権はウクライナに毎月50億ドル規模の援助をしているが、ドル札を刷ればいいわけで、インフレで貧困に陥るのはアメリカの中産階級であり、死んでいくのはウクライナ国民である。戦争の収益とバックマージンは戦争の長期化に正比例して膨らみ、特権階層のポケットに流れる一方だ。

 そして、日本。ウクライナ支援は、日本国にどんな利益がもたらされるのだろうか。経済成長につながり、国民が豊かになるのか。それとも、正義感の自己満足か。

 何もかも、悪いのがプーチン、悪いのがロシア。バイデンは、米国のインフレ率が高いのを、ウクライナ戦争のせいにしている。そうなのか?データをみてみよう。

 米労働省が3月10日発表した2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比の上昇率が7.9%で、伸びは1月の7.5%より拡大し、40年ぶりの高い水準に達したと発表した。ロシア・ウクライナ戦争が始まったのは2月24日。

 続いて、米労働省が4月12日発表した3月のCPIは前年同月比の上昇率が8.5%となり、前月比で1月→2月は+0.4%、2月→3月は+0.6%。ペースとしてはほとんど変わらない。どうしてもいうなら、ウクライナ戦争の影響はわずか0.2%程度しかない。

 小学生でもできる計算だ。これに対して、欧州は本当の被害者である。欧州中央銀行(ECB)は4月14日、ドイツ・フランクフルトで開催した政策理事会後の記者会見で、クリスティーヌ・ラガルド総裁は、2022年3月のインフレ率は前月の5.9%から7.5%に上昇し、特にウクライナ戦争で、エネルギー価格が前年同月比で45%上昇となったと発表した。

 バイデンは、米国内のインフレの責任をロシアになすりつける一方、軍需産業などで大きな利益を得、戦争を長引かせようとしている。ひどい話だ。

 戦争は人間がこの地球上に生きている限り、消滅しない。そして戦争も平和もタダではない。

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