10年選手で無固定労働契約を回避する方法は?なるべく短い固定期間契約を繰り返す方法は?スムーズに従業員を解雇する方法?・・・
本日の上海セミナーでは、増設された会場は70名近くの参加者で埋まり、このようなテーマと質疑応答が繰り返された。
何も企業の人事部が従業員いじめを考えているわけではない。今の労働法制度下では、企業の雇用制度ががちがちに硬直化した。解雇だけでなく、職務変更や賃金改定、配置転換等の企業人事権発動も制限され、身動きが取れなくなった状態である。それに、賃金団体交渉やストライキ・・・四方八方からの挟み撃ちだ。
数十名や数百名ないし数千名規模の会社でも、本当にダメな従業員は数名いるかいないかである。しかし、人数の問題ではない。たとえ、一人ダメな従業員がいて、その人がサボっていて、なおかつ減給もできない、解雇もできない状態だと、どうなるのか。会社がそのために莫大なコストをかけて、解雇事由の立証責任を果たさなければならない。万一その証拠が不十分だと、合法解雇ができなくなる。どうしたらいいのか、会社は金を積んで、お引取り願うしかない。お金の問題だけではない。同じ職場で真面目に働いている従業員はどう思うのか。正直者が馬鹿を見ることになる。
すると、このようなことを目の当たりにして嫌気がさした良い従業員たちが会社を去っていく。そこで、また問題だ。自己都合による円満退職だと、経済補償金が一円も出ないのだ。不円満退職の悪い従業員が逆に会社からどさっと補償金を持っていく。
「善」よりも「悪」が得する。このような会社では、「善」が萎縮し、「悪」が伸びる。やがて、「善」も「悪」の道に走り出す・・・
悪の抑止には、それなりの制度設計と機能が欠かせない。厳しい制度かもしれないが、それは「善」を守るためのものであり、必要不可欠である。
私は、こうして企業人事担当者に話をしているが、その話を何ひとつ隠さずに、顧客企業の従業員にもそのまま話す。ほとんどの会社の従業員から理解を得ている。世の中まだまだ「善」が大多数である。
90年代半ば、私が中国駐在で来た当時、どの会社も従業員が一生懸命に働いて、豊かになることを喜び、労使関係が穏やかだった。あのときの中国が懐かしい。