台湾(8)~花蓮観光しながらの戦争シミュレーション

<前回>

 花蓮は90年代に一度だけ来たことがあるが、記憶にほとんど残っていない。現地の友人溝淵氏が親切に自ら運転して案内してくれるので、喜んで便乗して観光に出かけることにした。

 花蓮観光といえば、太魯閣(タロコ)渓谷。まずは、観光の出発地点にある赤門の前で記念写真を撮るのが定番。この門には「東西横貫公路」と書かれている。この道路は花蓮と台中を結び、標高3000mを越える中央山脈を通る険しい道路で、太魯閣の入口も兼ねている。

太魯閣渓谷

 中央山脈は、一部の台湾人に「護國神山(国を守る霊峰)」とも呼ばれている。太平洋から台風が襲来すると、風下側である台湾西部は中央山脈に遮られるため、天気予報よりも被害が少ないことがあるとされているからだ。これはあくまでも大都市の集まる西部を中心とする偏った捉え方であり、東部住民の感情を無視している。

太魯閣渓谷

 台風と違って、中国軍が台湾を侵攻する場合は、台湾西部から上陸する。台湾西部の海岸のうち上陸に適しているのは台北、台南、一部の台中に限定される。海岸からすぐに市街地が広がり、上陸部隊が展開するのに十分な地積が確保できない。さらに、中央山脈の天険が最大の障害となり、台湾東部地区への侵攻を困難にしているとされている。そうした意味で、中央山脈は戦争から台湾を守る「護國神山」になってくれるのだろうか。

清水断崖

 答えは「NO」。中国軍は馬鹿ではない。台湾西部だけを制圧しても、東側に台湾軍が立て籠もり持久戦になれば、台湾占領は失敗に終わりかねない。となると、バシー海峡と宮古海峡の2ルートに分けて台湾東部へも海・空軍力を一気に展開するだろう。中央山脈越えはなく、複数ルートによる海・空攻撃による侵攻である。

七星潭海岸

 美しい七星潭海岸の近くに花蓮空港と台湾空軍基地がある。昨年(2022年)10月17日午前5時、酔っ払いの男性が基地に潜入し、約3時間も滑走路の近くに滞在した末、やっと発見・逮捕されるという前代未聞の出来事があった。台湾軍は大丈夫だろうか。中国軍が先に台湾東部の海・空域を押さえられれば、台湾空軍の重要基地が集中する東側の戦力を削ぎ、西側と東側の二正面作戦を台湾軍に強いることができる。米軍の台湾支援への牽制にもなる。

 花蓮観光しながら、密かに心中で戦争シミュレーションをしてしまう。美しい台湾の東海岸、花蓮の街はどうか戦場にならぬよう、ただただ祈るだけだ。

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