舞台のあるとこは美味しくない?レトロ上海料理店の客層

 噂を聞きつけて、上海出張中に「人和館」というレトロ上海料理店でリサーチも兼ねて夕食を取ることになった。3週間前の予約でやっと席が取れたという人気店。正直、消費者として私の好む店ではない。舞台のあるレストランに美味しい料理がないという私の頑固な先入観がある。

 18時30分の予約で入店すると、すでに番号札で呼ばれる待ちの客でいっぱい。AI系で電子音の機械呼び出しシステムはいかに現代的でレトロムードとの相殺効果が際立つが、それに違和感を感じる客はほとんどいないようだ。客層が若い。大半は身なりの良い準富裕層地方出身者だ。上海である程度のサクセスストーリーをつくった人たちではないかと。

 約束の舞台があった。綺麗な女性歌手が歌っている。レパートリーは、前世紀20~30年代の「経典老歌金曲」。これはなかなか沁みる。1920年代のオールド上海の社交界で活躍していたマダムたちが蘇った。新時代のニューリッチ層客が自己投影するための場である。

白斬鶏

 舞台は2~3曲で休憩を入れ、控えめで過剰な自己主張をせず、あくまでもライブBGM感覚にとどまる。本当の舞台は歌手でなく客に与えるという意図(心遣い)が見え隠れする。上海という舞台で我が世の春を謳歌する人たちが客層であり、セグメンテーションは明確だ。

薫魚

 蟹の季節でまずは酔払い蟹を注文。加熱した蟹を酒漬けにしたものと生の酒漬けという2種類がある。生を食べたいが、ただあたらないかと心配する私に、ウェイトレスが微笑みながら答える。「胃腸の強い方には、生がお勧めです」。洗練された回答だ。あたっても自分の胃腸が弱いだけで、文句は言えない。

酔払い蟹

 上海料理店であるから、上海料理が当たり前。しかし、周りのテーブルを見渡すと、みんなが松鼠桂魚を食べている。この1品は厳格に言うと上海ではなく蘇州料理だ。高級淡水魚のから揚げの甘酢あんかけで、魚に切り身を入れて、片栗粉をまぶしてカラッと揚げる。見栄えが良いので宴会料理に向いているが、こういう盛り上げる系料理は、私は好まない。

油爆蝦

 全体的にこの店に高得点を与えにくい。と、思いつつも、味は決して悪くない。ただ、味の素も使っているので、そこはやはり減点。店のランクを考えると、価格も決して目玉が飛び出るほど高いわけではない。そこそこの準富裕層若者の集いやデートの場にしては悪くない存在で、経営は成功していると思う。

<次回>

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