野草や野菜の変身、脇役が主役になる舞台の裏

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 上海出張中。早い時間帯に上海料理店「小実惠」に入ると、従業員たちが客席に座り、野菜の下処理に黙々と取り組んでいる。草頭の茎を摘み取るという作業は、さほど技術を要さない。ただ作業に時間がかかる。

 「草頭」とは、漢字名の通り、草の頭である。要するに、野菜でなく、もともと草しかも野草なのだ。日本語でクローバー(シロツメクサ)といい、決して食卓の主役ではない。それどころか、食べられる食材であることを知らない人も多いようだ。しかし、ここ上海では違う風景が見られる。

 草頭は、上海人最愛の主役食材の1つである。下処理に時間がかかるが、調理時間は1分もかからない。強火でさっと炒め、色が鮮やかな緑に変わったら、白酒と調味料を撒いて「酒香草頭」の出来上がり。野草独自のほろ苦さと香りが白酒に引き立てられ、絶妙なハーモニーを織りなす。

 中国語で「舍得(シェーデ)」という言葉があり、意味は「惜しまない」こと。「舍得化時間」「舍得下工夫」とは、時間をかけても、努力を傾注しても惜しくない。そうすれば、たとえ野草でも美味と化する。実は、「舍得」という名の野菜料理は存在するのだ。「人和館」のメニューに見つけた「舍得」は、こう説明されている。

 青菜は一般に30~40日で収穫期を迎えるが、あえてそのまま放置すると、50~60日になれば、青菜はより多くの栄養成分を吸収し、芯の部分が増殖して蕾が生え、これは「菜節」といい、もっとも美味な部分となる。「舍得」は、菜節トップの蕾だけを摘み取って料理する。10kgの菜節からは小皿1個分しか取れず、まさに「希少部位」である。上等な鶏油で煮込んで揚げる。青菜のエッセンスが凝縮され、新鮮で柔らかく、甘く、最も栄養価が高く美味しい。

 蕾だけ摘み取って使うが、葉など他の部分はすべて廃棄する。「捨てる」ことは惜しまない、まさに「舍得」の名に値する贅沢な1品である。

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