ブルネイ(8)~鞭打ち刑と私の密かな楽しみ

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 不倫は刑事犯罪にあたり、最悪の場合死ぬまで石を投げ付ける石打ち刑。窃盗罪の犯人は、手を切断する断肢刑。レストランを含む公衆の場での飲酒行為は鞭打ち刑や罰金、レストランも連帯責任を問われ処罰対象となる・・・。

 ブルネイ滞在中に訪れた地元のレストランの入口にも警告文が貼られている。中国語になっているのはおそらく情況を知らない華人を対象にしているのだろう。うっかりして酒をレストランに持ち込んで飲んでいると、大変なことになる。

150501-1907-Brunei-Neptune Restaurant「窃盗には断肢、飲酒には鞭打ち」

 「あそこの立派な建物はイスラム法の裁判所です。その一角に鞭打ち刑を執行する部屋があります」。ブルネイ視察の車内でガイドが教えてくれた。

 その鞭打ち刑は、鞭で受刑者の臀部を4、5回打つものだが、ただそれがちょっとしたあざや内出血で済むものではない。どうやら棘付きの特殊な鞭で打つらしい。打たれたお尻に棘が一面と刺さって、刑執行後は受刑者がそのまま病院に搬送される。そこで専門担当の医師がいて「あら、やられたね。お気の毒様です」といった感じで淡々と棘を抜いて消毒して処置を行う。

 ここまでは良いが、問題はその後2~3か月の間、座ることも寝ることもできない(うつぶせ寝しかできない)。人前に出ても座ることができないほどお尻が痛いことで、受刑したことがすぐばれてしまい、肉体的な苦痛も精神的な屈辱も一生忘れることはあるまい。これで再犯防止に絶大な効用があると考えてもよさそうだ。

150502-1955-Brunei-Empireホテルの鉄板焼、日本酒が欲しいよ!

 鞭打ち刑は、笞刑(ちけい)といい、中国や日本に起源する。唐の律令法では、笞刑・杖刑・徒刑・流刑・死刑という五刑がある。日本では大宝律令・養老律令において笞罪・杖罪・徒罪・流罪・死罪が定められていた。ただ、それが日本の場合、和訓では「之毛度(しもと)」と言われ、最も軽い刑罰であり、木製の笞杖によって臀部を打ち、受刑者の皮膚を破らないように節目などの凹凸は削られたものが使用されたという。

 酒好きな私にとって、ブルネイほど居心地の悪い国はない。そこで、レストランで飲めないのなら、ホテルの客室で晩酌しようと酒を持ち込む。

 ブルネイは非ムスリムの外国人に対し、一定枠のアルコール類の持ち込みを認めている。ただ、入国時の税関申告が煩雑だ。機内で記入した一般の「税関申告書」のほかに、入国する際に黄色い紙の「酒類持込申告書」という別途の詳細申告が必要。税関で検査を受け、係官が黄色い紙にポンポンと判を押し、その半券を切り離して酒類所持者に渡す。それでこれが合法的に持ち込んだ酒として、堂々と、いや堂々というわけにはいかず、ホテルの客室で密かに飲めるわけだ。

150501-2135-Brunei-Empireボトルの下にある黄色い紙は「酒類持込申告書」の酒類所持者控え

 その酒はまた、うまいこと。マレーシアから持参したチーズやサラミ、ナッツ類をつまみながら、ブルネイの夕暮れや星空とともに美味しくいただきました。

(注:イスラム法はムスリム適用だが、一部非ムスリムにも影響する)

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