投資の話(3)~投資アドバイザーの姿、規範と倫理を守っているのか

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 ここ数年、日本人投資者が香港で投資商品を契約、購入するケースが増えている。その仲介とアフターサービスを担当する(日本人)投資アドバイザーは、有資格者でなければならない。その主な資格とは、香港保険業協会(PIBA)、香港保険顧問協会(CIB)、香港証券先物委員会(SFC)という御三家ではないだろうか。

 PIBAを例に説明しよう。PIBAライセンスをもつ投資アドバイザーが、実際に顧客に対しどのようなサービスを提供しているか、PIBAの規範やガイドラインに照らしてチェックすると分かりやすい。

(1) 投資商品のメリットばかり強調していないか?

 投資商品は儲かることもあれば、損することもある。その2つの側面を客観的に消費者(投資者)に説明するのが、投資アドバイザーの責務である。そこで楽観的な市場予測だけ顧客に提示すれば、顧客を誤導する恐れがある。まずは慎むべきである。

 「PIBA投資関連業務の実施におけるガイダンス」(2015年1月1日改正)3.1条、3.2条では、「投資商品販売の前後にわたり、顧客へ明確な情報を提供しなければならない。商品の利回り成長に過剰な楽観的予測を避けなければならない」と定められている。(注:英語条文要旨の参考和訳は、立花によるものである。以下同)

 一部の投資アドバイザーのブログを見ても、基本的に「楽観的予測」しか記載されていない。セミナーの説明も、明るい未来がバラ色一色。これでいいのか。上記ガイダンスに符合しているといえるのだろうか。

 消費者が実際に商品を購入してみると、後日元本割れや塩漬け状態になって困るケースがあまりにも多い。金融投資商品のせいではない。もともとリスクが付きまとうもので、リスクを消費者に徹底的に説明せず、楽観的予測ばかり提示する投資アドバイザーのモラルの問題にほかならない。

(2) 投資商品のリスク告知をしているか?消費者(投資者)が完全に理解しているのか?

 さらに、「PIBA保険ブローカーによる投資関連業務の実施における行動規範」(2014年3月1日改正、以下「行動規範」という)第7.5条では、「顧客が商品に関するリスクを完全かつ十分に理解し、これらを受け入れる旨を、あらゆる方法により明確にさせ、これを書面により記載し、顧客により署名・日付を付されなければならない」と定められているが、これが完全に実施されているのだろうか。

 特に日本人消費者(投資者)で英語が読めない人も多い。リスクの理解と受け入れの意思表示を確認する段階において、日本語による内容の提示がなされているのだろうか。

(3) クーリングオフ等消費者(投資者)の権利をきちんと告知しているか?

 「行動規範」第5.1条によれば、「顧客が投資商品の購入意思決定をする前に、クーリングオフ期間を顧客に告知しなければならない。さらに保険証書の送達時に、クーリングオフの権利を再度顧客にリマインドしなければならない」

 さて、消費者(投資者)の皆さんは、投資アドバイザーにこのような権利を告知されていたのだろうか。小さな問題ではないはずだ。たとえ小さな問題であっても、一つ一つ投資アドバイザーがきちんと消費者に告知してこそ、そのプロフェッショナル性とモラル、そして自信の表れではないだろうか。

(4) 契約後の後続情報提供とサポートを行っているか?

 「釣った魚に餌をやらない」。多くの投資アドバイザーがなぜ、契約した既存顧客への継続ケアに熱意がないかというと、彼・彼女たちは、契約時という「入口」で販売仲介手数料という主たる収入を得ていて、後日の後続ケアには大きな利益がないからである。だから、どんどん新たな魚釣りに乗り出すのだ。

 関心は、「釣った魚」ではなく、「漁」なのである。

 しかし、消費者にとってみれば、投資商品の保有・変更・売却、つまり収益の獲得という「出口」こそが価値の所在である。そこで、投資アドバイザーの「入口利益」と消費者(投資者)の「出口利益」が見事に衝突し、利益相反を成すのである。

 たとえば、投資アドバイザーが契約後の顧客に総合財務プランニングのサポートを提供しているか。いわゆる適切な情報供与、ポートフォリオの見直しと調整といったメンテナンスである。

 「行動規範」7.3条では、次のように規定している――。

 「総合財務プランニングを提供する際に、国際基準である6段階の手順に従う。①関連データの収集と分析。 ②顧客の個人的目標を特定、評価し、これらを財務目標に置き換える。③財務上の問題点を特定し、これらを分析する。④助言付きの財務プランを書面で提供する。⑤当該計画の実施をコーディネイトする。⑥定期的に計画の見直しを行う」

 これを消費者(投資者)に提供し、緻密なメンテナンス・サポートを行っている投資アドバイザーがどのくらいいるのだろうか。

 次回は、投資アドバイザーと消費者(投資者)の利益相反についてさらに掘り下げる。

<次回>

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