真の保守とは(1)~社会制度の変革から生まれる畸形児

 貧困層の出現と増殖は、社会制度が悪いからだ。昨今の日本では、このような論調が台頭している。塩野七生「サイレント・マイノリティ~真の保守とは」には、次のような記述がある。

 「保守主義者は、社会の一部の人々の貧困と不成功が、社会組織の欠陥に必ずしも由来するとは限らないことを知っている。そして、それの改善は、ハンディを持つ人たちにもう一度機会を与える制度、つまり敗者復活戦的な制度で解決するほうが、社会組織の全般的改革よりも有効である事実にも盲ではない」

 いかなる事物の原因をも単一化することはできない。往々にして錯綜し多岐にわたって原因が存在する。社会底辺の形成も、社会組織や制度それ自体の所産だと短絡的に結論付けすることができない。どんな社会組織・制度下においても底辺に転落する者が存在する。あえていうならば、そうした者がいままで転落しなかったのが一種の問題だったともいえる。

 ハンディをもつ人たちに限ってみれば、敗者復活戦的な制度は無論重要だが、ただハンディそのものに不平等の原因を追及すると、議論が岐路に入る。同書はさらにこう述べている。

 「人間は、健康面でも年齢でも、また性別で外貌でも、そして教育でも才能でも力でも勇気でも、さらに意志でも正直さでもその他あるゆる面で平等でないと、保守主義者は信じている。運命だって、すべての人々に平等ではない。そして、この真実を無視する社会は、遠からず自ら墓穴を掘る結果に終わることも知っている」

 単純明快にいうと、世の中には、「平等」たるものは存在してこなかったし、存在していない。さらに将来にも存在し得ないのである。フランス革命所産の「平等」とは、階級などの人為的隔離の解消を指しており、理想主義的な憧憬も込められるスローガンに過ぎない。理想よりも、空想的スローガンである。

 空想的スローガンに、プロパガンダの価値を見出す集団が存在する――。

 特に貧困者層が増殖する時代、その根本的原因を社会組織や制度にあるとし、社会制度そのものを指弾する集団が大変危険である。彼たちの本音は大衆のルサンチマンを煽って社会組織や制度の変革を引き起こすことで、為政者の座を手中に納める、それだけのことである。

 彼たちはそもそも、大衆の福利などには関心の欠片もない。不平等の除去からは、新たな不平等、さらに大きな不平等を生み出すのみだ。

 共産主義者は社会制度の変更によって新たな、より真正な専制独裁的政治構図を作り出し、そして、自分たちがその頂点に立つ。このために、あらゆる美辞麗句的なスローガンを動員する。共産党と組んで、民主主義制度下の選挙まで濫用しようとする民進党一派はいよいよ馬脚を現す。

<次回>

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