ホーチミン出張中に、新しくオープンしたあの噂の「しゃもじ炉端焼き」(Shamoji Robatayaki)の視察に出かける。
路面店でドンコイ通りに至近距離。さらにガラス張りの店内から、パフォーマンスがリアルに通行人に伝わる・・・。ほぼ外部好条件が揃っている。中に入ってみると、歓迎の太鼓叩きや威勢の良い「いらっしゃいませ」、これもパフォーマンス満点。
素材も大きな問題がなく、日本国内の一般的な炉端焼きと大差ないように思える。メニューをざっと見て、基本的にベトナム人富裕層を狙っている感が強く、これもよしとする。と、ゆっくり食べようかなと思った矢先に、信じられない出来事が起こる――。
ガチャン。トングを床に落としたのは焼き台のリーダー格の男だ。次の一幕が衝撃的だった――。彼はなんと床から拾い上げたトングで、躊躇いもなく焼き上がった鮎をそのまま挟んだのだった。
交換された新しい鮎
「ちょっとまって、その鮎は要らない。キャンセルして新しいのに換えてください」。「なんで?」、私の要求に不思議そうな顔をする彼を見て、私は言葉を失った。この男は最初から、焼き台で爪垢を取ったりしているのを見てヒヤヒヤしていたが、やっぱりというか、こういうことだったのか。
「爪の垢を煎じて飲む」ならぬ「爪の垢を焼いて食べる」ことだけは、避けたいものだ。