大衆はこうして扇動されるのだ、ヒトラーから学ぶ技術と芸術

 『ヒトラーの大衆扇動術』(許成準著)で述べられた大衆扇動術は今日においても、独裁国家や民主国家に関係なく、使われている。「扇動術」という大袈裟な政治ツールでなく、一般ビジネス・商業分野にも日常的に活用されている。しかも、立派な名称がついている。それは「マーケティング」だったり「広報」だったりする。

 「大衆は愚か者である」。これはまったく正しい。衆愚政治だけでなく、ビジネス界にも通用する。知人のマーケティング専門家もそういうが、世の中もっとも売れていて馬鹿儲けする商売のほとんどは大多数の愚かな消費者によって支えられている。「新発売」やら「ニューバージョン」といった類も愚か者向けである。

 中間層が消えることで大騒ぎする産業界は、要するに客層を失うから、困るのだ。いうならば、貧困になれば、(扇動されて欲が生まれ、欲をコントロールできない人の)ほしいものが買えなくなる。生命維持機能に絞られる消費活動は縮小し、不要な無駄遣いを削減せざるを得ない。ただ貧困になると、人は賢くなるかというと、そうではない。

 貧すれば鈍する。「貧困者ほど騙しやすい」というのは、特にに政治面を指している。貧困層はルサンチマンに陥り、不幸の原因を他者から見出さねばならないからだ。怒りを強者や富裕層、外国に向けて爆発させる。それを誘導してガス抜き用の敵を作るのは政治である。全体主義(共産主義やファシズム)がより拡散・浸透しやすくなる。

 「共通の敵を作り大衆を団結させる」というのは、まさに、ここだ。愚か者の大衆は感情の奴隷になっているので、「利口な人の理性ではなく、愚か者の感情に訴える」ほど効果的な手段はない。肝心なポイントは、「大衆を熱狂させたままにし、考える間を与えない」ことだ。

 「考えさせない」ことはつまり、「思考停止に陥れる」ことだ。そのために情報操作が必要だ。「敵の悪を拡大して伝え大衆を怒らせる」。ただただこれを繰り返すだけ。敵の悪を裏付ける以外の情報、「不都合な情報を一切伝えない」。プロパガンダの本質である。

 情報は少々の嘘があっても構わない。いや、むしろ「人は小さな嘘より、大きな嘘に騙される」ので、大きな嘘をついてなおかつ「同じ嘘を繰り返す」ことが大事。嘘をつくことが悪いのではなく、嘘がバレることが悪いのだ。バレないために、美しく飾り立てる必要がある。

 ここまでは「技術」だが、ここからは「芸術」の出番だ。「宣伝を総合芸術に仕立て上げ、大衆の視覚聴覚を刺激して感性で圧倒する」というわけだ。

 いかがだろうか。現代人はこうした扇動の技術芸術に取り囲まれていることに気づいたはずだ。いや、気づかない人が大半ではないだろうか。それはつまり原点にもどり、「大衆は愚か者である」からだ。

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