ベトナムが中国に取って代わり世界の工場になり得ない、それだけの理由

 ベトナムが中国に取って代わり世界の工場になり得るか。まず数字を見てみよう。

 2021年のベトナムGDPは、3626億ドル。中国・広東省は1兆9282億ドルであるから、ベトナムは広東省のわずか2割弱しかない。広東省がそのまま停滞し、ベトナムが年8%の成長率で追い上げるとしても10年以上はかかる

 10年という期間、ベトナム国内の賃金上昇だけを考えても、外資は次のフロンティアに移動せざるを得ない。つまり、ベトナムは広東省に追い上げる余裕すらないのである。

 繰り返してきたように、勢いとしては昨今のベトナムの経済成長は20年前の中国に似ている。だが、国土や人口の規模からすれば、中国と単純比較できないほど小さい。キャパが足りないわけだ。

 さらに、ベトナムのサプライチェーンの整備が立ち遅れている。国や産業規模が小さいだけに、ベトナム国内で完結するには無理がある。10年の時間をかけても中国同様のサプライチェーンが整備できると思えない。ASEANを全体的にみても、各国のばらつきが大きく、統合的なサプライチェーンの整備は困難である。

 それだけではない。ベトナムに投資する外資といえば、決して日本や西側諸国だけではない。何よりも中国もベトナムに大量に投資している。中国国内の人件費上昇や米中関係の悪化を受けて中国企業もこぞってベトナムに移動している。結局、ベトナムは中国の下請けになっているわけだ。

 原産地が「Made in Vietnam」であっても、中国資本であれば、結局中国サプライチェーンの延長にすぎない。中国資本のベトナム企業だからといって、米欧西側がその製品を拒否するわけにもいかない。
 
 中国共産党第20回代表大会が閉幕すると、一番乗りで北京に飛び、習近平の接見にこぎつけたのはベトナム共産党のグエン・フー・チョン書記長。「中国詣で」の目的は言うまでもなく「中国の下請けをやらせてくれ」という営業活動である。南シナ海の領海紛争を棚上げにしてまずは商売だ。

 訪中の成果は大きい。中越の経済・貿易面においては、中国企業のベトナムへの投資奨励をはじめ、両廊一圏の枠組みと一帯一路構想の開発戦略のコネクティビティー強化などの方向性が固まった。さらにベトナムは中国のTPP加盟も支持した。

 最後に補足しておこう。ベトナムは、付加価値の低い加工業以外に経済の基盤となる基幹産業をもっていない。当初の中国もそうだったが、後日中国はその致命傷に気づき、ハイテクや金融に注力するようになった。ベトナムは資金面も人材面も中国と比べたら雲泥の差。

 総じていえば、西側諸国が「脱中国」の手段としてベトナムを使おうとしているが、結局のところ、肝心なベトナム自身も脱中国どころか、中国に依存し切っているのだ。だから、ベトナムが中国に取ってかわり、世界の工場になるのではなく、中国工場の下請けになる、ということである。

 脱中国は、夢想、幻想である。

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