「失敗する方法」と「貧乏人になる方法」

 20年以上もコンサルタントをやっていると、つくづく思ったことがる――。成功の法則はないが、失敗には法則がある。

 日本企業の失敗には、決まったパターンがある。それぞれのパターンには症候もほとんど共通している。全てのパターンに共通している症候は、「私・当社に限っては大丈夫だ」という確固たる自信である。

 企業には「どうやったら成功するか」と聞かれても、私からまず言えるのは「どうやったら失敗するか」だ。そこでがっかりする人が多い。「この先生は何も教えてくれないじゃないか」と。

 聞きたいが、「億万長者になる方法」類いの本は数えきれないほど売っているが、それを読んで実際に億万長者になった人は何人いる?

 世の中、一番必要とされるのは、「失敗する方法」「お金の捨て方」「貧乏人になる方法」なのだ。だが、本気でそんな本を書いたらおそらくまずベストセラーにはならないだろう。まったく売れないかもしれない。それは本書きの「失敗の法則」であり、賢明な著者はそんな本を書かないのだ。

 努力や失敗の扱い方も重要だ。

 ある方が私の投稿に、本田宗一郎氏の言葉「私は失敗したことがない。成功するまで諦めないからだ」を引用し、「倒れても倒れても這い上がり、失敗しても失敗しても立ち上がり、成功するまで諦めない根性があれば成功する」とコメントした。

 まったく、違っている。それは、その方本人の生き方なのかもしれないが、本田氏の本旨ではない。念のため、私が調べてみた。本田氏のオリジナルの言葉はこうだった――「私の最大の光栄は、一度も失敗しないことではなく、倒れるごとに起きるところにある」

 「倒れても倒れても這い上がり、失敗しても失敗しても立ち上がる」とは、量的根性論であり、本田氏のは、「失敗を恐れるな、失敗から成功を作り出そう」という質的進化論である。「量」と「質」の混同こそが、「失敗の法則」の1つである。

 量よりも質。「根性があれば成功する」ことは真理ではない。希望的観測だ。時には失敗を正当化する自己陶酔にもなる。根性があって失敗する事例をたくさん見てきた。なかに根性があればあるほど、失敗が悲惨だという事例もある。

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