台湾戦争、日米の負け方を予測する

 2023年2月28日付ニューヨークタイムズの記事「中国が台湾に侵攻した場合、米国は何に直面するのか」の要点を踏まえ、「台湾戦争にあたって、日本は何に直面するか」という側面から掘り下げてみたい。

● 台湾陥落すれば、日本はただでは済まない

 インド・太平洋地域で大規模な戦争が起こる可能性は、第二次世界大戦後、かつてないほど高まっている。中国共産党政権は、台湾を統一し、アジア太平洋地域における米国の覇権に直接挑戦できるほど、軍事的、経済的、産業的に強力になってきている

 物事の遂行・成就には、「意志」「能力」という2つの要素が絡んでいる。中国は「台湾統一」にあたって、この2つの要素ともにクリアしている。台湾進攻が成功すれば、アメリカは第一列島線の陥落に直面する。それによって、日本は同盟国としての戦略的存在意義も役割も大幅に低下し、アメリカに切り捨てられる可能性が出てくる。

 日本は用無しになるのはまだしも、アメリカに協力してきただけに、特に台湾戦争に何らかの形で介入した時点で、すでに中国の敵国になったわけだから、戦後の清算から逃れることはできない。この清算は日中戦争、日本による中国侵略の時代に遡るため、想像を絶する。結果としては、領土支配または制度的支配を含めて、日本は何らかの形で中国の属国または準属国になるだろう。

● 電撃戦で台湾支配、そして日本攻撃も
 
 戦争にあたって、中国は、アメリカと同盟国が介入する前に、空、海、サイバースペースで電撃攻撃を行い、数時間以内に台湾の重要な戦略目標を掌握することも十分可能だ。2021年にアフガニスタンのカブールがタリバンにどれだけ早く陥落したかを思い出せば、台湾陥落が比較的早い段階で起こり得ることが理解できるだろう。

 第二次世界大戦終戦後に、大きな戦争で米国が勝ったのは、湾岸戦争くらいだ。これまでの小国と違って今回向き合うのは強大な中国だ。アメリカに勝算があるのだろうか。

 中国は日本、韓国、フィリピン等の米同盟国、および西太平洋の米国領を攻撃する準備が整っている。米国は太平洋を何千キロも隔てた敵と戦うことは物理的に非常に困難だ。ゆえに日本等の基地を使わざるを得ない。すると日本は敵国とみなされ、中国の攻撃対象になる。米国領のグアム、第二列島線を確実に死守するためにも、日本、第一列島線を諦める。この関連性は容易に理解できる。

● 軍事よりも社会浸透、分断で日米内部の自壊を狙う

 通常戦争ならまだしも、中国はもっと広範囲にわたって、アメリカ社会に浸透するような戦争を仕掛けてくる。中国はこの10年間、米国を政治的・社会的に深い危機に瀕した国として見るようになった。習近平は、米国の最大の弱みは国内にあると明らかに感じている。彼はこれを利用し、アメリカを分断し、米国人の戦闘意志を弱め、疲弊させる多角的な攻勢に出る。

 中国は過去20年間、米国とその同盟国の政府、メディア組織、企業、市民社会に浸透し、これらを操作し、混乱させるために、サイバー戦争能力を構築してきた。戦争が勃発すれば、中国は間違いなくこの能力を利用して通信を妨害し、フェイクニュースやその他の偽情報を流す。その目的は、混乱、分裂、不信を引き起こし、意思決定を妨げることである。さらに、電気、ガス、水道、交通、医療、その他の公共サービスを停止させるサイバー攻撃も同時に仕掛ける可能性がある。

 21世紀の戦争について、中国は「超限戦」という概念を打ち立てている。『超限戦 21世紀の「新しい戦争」』(喬良・王湘穂著 角川新書)という書は、以下のように述べている(主旨)――。

 軍事と非軍事――境界を曖昧にする手法が21世紀の「戦争の形」である。超限戦とは、「戦争と非戦争」、「軍事と非軍事」という全く別の世界の間に横たわっていたすべての境界が打ち破られる在り方を指している。「非軍事の戦争行動」は、貿易戦、金融戦、そして新テロ戦という3つの主な形態が含まれている。

● 息の根を止める、サプライチェーンを切れば日本は終了

 「非軍事の戦争行動」は多岐にわたる。中国は、サプライチェーンと海上輸送における優位性を武器にする。日本経済は、中国の資源と製造品に大きく依存しており、日本人消費者は、電子機器から家具、靴に至るまで、手頃な価格の中国製の輸入品に頼っている。戦争が起これば、貿易が止まるだろう。供給不足があっという間に大問題に発展し、日本人は急激な値上げ、物資不足に直面し、不自由な生活を強いられる。

 日中貿易の再開は目途が立たない。日本国内では、一部の物資については緊急配給制を取らざるを得ない。やがて闇市が出現し、追い打ちに日本円が暴落すれば、米ドルが取引通貨になり、たとえ大量の円を保有する資産家でも貧困層に転落する。インフレ失業が急増するなか、国民が分断し、反政府に傾くだろう。

● 中国は世界の半分を支配する日

 多くの点で、中国は今や世界の産業界を支配する存在となっている。2004年の米国の製造業生産高は中国の2倍以上であり、2021年には中国が逆転し米国の2倍を生産している。船舶、鉄鋼、スマートフォンを大量生産し、軍事産業に不可欠な化学品、金属、重工業設備、電子機器の生産でも世界をリードしている。ウクライナ戦争で明らかになったのは、米国は戦争に必要な先端兵器などの生産で中国を凌駕する立場にはないことである。ウクライナへの軍需品の供給は、米国の備蓄を枯渇させた。備蓄の再構築には数年かかる。

 経済的・軍事的支配だけではない。中国による政治的支配も進んでいる。西側の民主主義は腐り始め、ある意味ですでに「白左」化し、共産主義2.0に変質した(参考記事:『「白左」とは?共産主義2.0は西側社会と現代文明のガン』)。一方、独裁専制とはいえ、独裁専制を前提とする中国型の資本主義だからこそ、民主主義にない優越性を世界に見せつけている。

 日米は負け方を真剣に考える時がやってきたのだ。中国が少なくともインド太平洋地域、世界の半分を支配する時代に、われわれの生き方も変えざるを得ない。

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