台湾人よ、あなたたちは中国にでなく民主主義に負けてるんだ

 台湾人は、損している。

 ロシア出身の世界的なソプラノ歌手、アンナ・ネトレプコ氏が2023年3月5日に台北で予定したコンサートが中止されることになった。ネトレプコ氏は、プーチン大統領に近いとされ、台湾人市民団体などから反発が出て、「こんな人は台湾の舞台に立たせてはいけない」と。

 台湾人は、絶好のチャンスを逃してしまった。その理由を説明しよう。

 台湾は中国との関係を扱ううえで、先天的な「欠陥」を抱えている。中国と文化的ルーツを共有していることだ。そのルーツを断ち切らずに台湾自身の道を歩むには、特別な処理が必要なのだ。その大前提はまず、文化を政治から完全に切り離すことだ。この論理を成立させるためには、今回のネトレプコ氏のコンサートは絶好のチャンスとなる。

 ロシア人歌手や音楽、芸術は、政治と関係がない。一時欧米ではアンチロシア人芸術家の動きがあったが、それと一線を画して台湾人の高い民度を示す絶好のチャンスでもある。ロシアのウクライナ戦争や併合意図に猛烈に反対する一方、ロシア人歌手にあえて熱狂的な姿勢を見せ、その鮮烈なコントラストをもって中国にあるメッセージを発する――。

 「台湾は、中華文化のルーツを共有しながらも、中国共産党政権とはイデオロギーを共有しない。政治と文化はまったく別物だ」

 しかし、台湾人にはそこまでの知恵がなかった。台湾人はロシア歌手を台湾コンサートから追い出してしまった。自ら文化と政治の一体化を肯定したのである。芸術や文化にイデオロギーを持ち込むなら、台湾人はまず、中国の芸術や文化のルーツを断ち切らなければならない。

 台北の故宮博物院をそっくりそのまま中国に返還すること。中国語を国語から外し英語を国語とすること。ついでに「春節」も廃止したほうが良かろう。そして何よりも、中華民国の国号を改め、独立宣言を行うべきだろう。できるのか?できるはずがない。自身の弱みを避け、いかにそれを強みに転換するか。残念ながら、台湾の大衆にはそれほどの知恵は持ちえない。

 大衆と違って、政治家のエリートたちはその知恵をもっているはずだ。しかし、民主主義国家ゆえに、「民意」が票を意味し、政治家にとってそれがすべてなのだ。そのうえ、与党民進党は大衆の無知やルサンチマンを利用し、反中感情を煽ってきただけに、今更軌道を修正する余地は皆無だ。

 以前、中国本土に反日デモが起きて、大衆が中国製造の日本車を破壊し、中国製造の日本ブランド品に不買運動を起こした。馬鹿じゃないかと、その当時台湾人が中国大衆の愚民ぶりを嘲笑したが、結局、台湾人も同じではないか。言ってみれば、その当時の中国政府はどちらかというと、大衆の感情を政治的に利用したのだった。

 民主制も独裁制も、大衆は同じ愚民である。ただ民主主義下の愚民ぶりは、馬鹿モロだしで体裁が悪いだけでなく、しばしば国益を損なってもまかり通る。これに対して独裁専制は、愚民ぶりを抑え込むこともできれば、逆に必要に応じてその露出を利用することもできる。自由自在に操縦できるのだ。

 言い換えれば、義民ぶりに対して、民主主義はアクセルだけだが、独裁専制はアクセルとブレーキの両方をもっている。

 文化に政治を持ち込む――「文化大革命」。かつて独裁中国がやったことで民主主義諸国に批判され続けてきた。しかし、気が付いたら、民主主義国家でも同じようなことが起きているのではないか――ポリコレ

 中国共産党は高笑いしている。ほら、民主主義も同じじゃないか。みっともない。だが、彼たちは明言しない。ただただほくそ笑み、民主主義の自壊を待ち構えているだけだ。

 台湾人よ、あなたたちは中国にでなく民主主義に負けてるんだ。

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