台湾戦争に日本が介入する意義とは何か。「台湾有事は日本有事」という前提があって、その「日本有事」をいかに「日本無事」に切り替えるか、これが日本にとって第一義的な戦略選択ではないだろうか。
まず日本人に理解してほしいのは、敗戦が中米台日という4当事国にとっての結果が異なることである。
まず、中国にとっての敗戦は国土の喪失を意味し、台湾統一大業の敗北であり、共産党政権の倒壊にも至り得る。戦争にあたっては、中国はあらゆる逃げ道を自ら断ち、背水の陣を敷くだろう。その悲壮感から、孫子の兵法にある「哀兵必勝」という言葉を想起する。敗戦の悲哀を知る兵隊ほど強く、勝利するという法則だ。しかも、最後の最後に、負けを受け入れるよりも核を使用する選択肢も残されている。
次に、アメリカにとっての敗戦は第一列島線の喪失を意味する。そこで何としてでもグアム、第二列島線の保全を図り、あっさりと損切りする。最悪のシナリオ、中国が台湾または日本に核を使用した場合、そこでアメリカは他国のために核を打ち返すかといえば、それはあり得ない。ウクライナ戦争では証明されたように、アメリカは公式派兵すらしない。他国のために第三次世界大戦を受け入れるはずがない。
では、台湾が負けた場合はどうだろう。台湾は中華人民共和国の省または特別行政区になる。中国とは同じ言語・文化を共有する同族として、日本人と違って、台湾の陥落を「統一」という概念で捉えることもできる。中国による経済封鎖やライフラインの破壊によって島内の分断が起き、早期段階において降伏する可能性もなくはない。台湾島内においてもすべてが独立派ではない。最悪の敗戦よりも、中国の統治を受け入れるのも現実的な選択肢と言える。
最後に、日本が戦争に介入し敗戦となった場合は、もっとも結果が深刻である。まずは中国国民の対台感情と対日感情が全く異なる。二度目の侵略戦争という認識の下で、核の使用を含めて、日本に対するあらゆる強力な攻撃も民意に支えられ、可能になる。敗戦した日本は、中国による間接的な支配を受ける可能性が高い。特に教育面、学校では中国語の授業が入るだけでなく、教科書の編成も検閲下に置かれるだろう。
もう1つの要素は、ロシア。ロシアは中国の台湾武力統一に明確に支持を表明した以上、中国の「後方支援」として北海道に何らかの行動を取り、日本の戦争介入を牽制することもあり得る。さらに北朝鮮も待ち構えている。既にウクライナ戦争でロシアを敵に回した日本は、西南北の3方向だけでなく、ロシア艦隊が太平洋に回った場合、完全包囲される状態に陥る。日本は対応できるのだろうか。考えるだけで鳥肌が立つ。中露北朝鮮は全員核保有国であることを忘れないでほしい。
深刻な結果を避けるためにも、日本が取り得る戦略は「台湾戦争不介入」、あるいは中台平和交渉の仲介役を引き受けるのも悪くない選択だ。日本の中立姿勢は実は、米中の両方と駆け引きする上でも強いカードになる。ただ今の自民党政権では無理だろう。
台湾メディアの情報によれば、米海空軍の大量の武器装備が2026年に退役する。それまでに賞味期限ギリギリの武器装備を台湾や日本に買わせ、他国を犠牲にして中国と戦わせ、中国の国力を消耗し、中国が米国を経済的に軍事的に追い抜くのを引き伸ばす。一石二鳥や三鳥の戦争だ。
非理性的な対米追随は、いわゆる戦後保守政治の符号になったうえで、懐疑どころか、議論すら許されていない。さらに、日本人の対中感情が悪い。これは中国の「非民主性」に対するイデオロギー的な拒絶感でなく、中国の国力超越に対する日本人の「妬み」にほかならない。善悪の価値判断が先行し、事実認識ができなくなり、本能的な嫌悪感が日本人の理性を奪ったのである。
日本と台湾の友好関係は、歴史的つながりに起源する部分は確かにある。ただ、拡大しすぎてはいけない。むしろ、共に中国からいじめられてきたところ、「同病相憐れむ」の部分が大きいのではないと。これも非常に情緒的である。付け加えると、地震や自然災害時の義援金寄付行為と戦争介入・支援は全く次元が違う。一緒にすると非常に危険だ。
台湾人も同じ。日本人の情緒的な、時には無責任な言説を感情的に過信してはいけない。もっと理性的に、主体的に考え、状況判断し、意思決定を行うべきだろう。台湾も日本もアメリカの手駒だが、決して捨て駒になってはいけない。
先日、私があくまでも仮説として、「日本が台湾戦争に介入してもし勝ったら、ご褒美として台湾再占領でもできたら、戦う価値があるかもしれない」とフェイスブックに投稿したら、とある台湾人がコメントしてきた――。「台湾が日本の属国になるのはいいが、日本がアメリカの属国だから、属国の属国になるのは絶対に嫌だ」
実は中国人が日本を見下している理由も、同じ。「アメリカの属国のくせに偉そうな顔しやがって、アメパパのケツでも舐めてろ」と。返す言葉がない。戦後の日本、自民党を含めて、主流である親米保守は、偽保守・似非保守である。愛国者ならぬ害国者の一面も現れつつある。
戦後日本最大のタブーとされる「指揮権密約」がある。つまり、「戦争になったら、自衛隊は米軍の指揮下に入る」という密約のことだ。それはアメリカの公文書(注:獨協大学の古関彰一名誉教授が発掘し、1981年5月22日号と29日号の『朝日ジャーナル』で記事にした)によって、完全に証明された事実なのだ。占領終結直後の1952年7月23日と、1954年2月8日の2度、当時の吉田茂首相が極東米軍の司令官と口頭でその密約を結んでいる。
戦時指揮権が米軍にあるならば、日本の台湾戦争介入も、捨て駒になることも確定だ。憲法9条はそもそも無意味だ。