落とし物が戻ってきた、美徳云々の話ではない

 落とし物をして戻ってきたことで日本社会の美徳を讃える。そういう人がよく見受けられる。

 美徳ではない。法律に定められた義務である。遺失物法第4条では、「拾得者は速やかに拾得をした物件を遺失者に返還し、又は警察署長に提出しなければならない」と定められている。繰り返すが、道徳と法律は違う。拾得物の提出は道徳レベルの話ではなく、単に法律上の義務にすぎない。

 さらに同法第28条では、「返還を受ける遺失者は、当該物件の価格の5~20%に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない」となっている。これを知っている人がどのくらいいるかわからないが、拾得者が報労金の請求権を放棄したとしても、遺失者が進んで報労金を支払わなかったことの道徳次元の問題ではないだろうか。

 報労金の問題だけではない。日本の遺失物法は合計71条、1万2000文字もある。これだけの法律の実施にあたっては、行政をはじめ大きなコストがかかっている。これらのコストは言うまでもなく国民の税金で賄われている。だから、落とし物が戻ってきたことで、遺失者は国民の税金を使っていることをしっかり自覚しなければならない。

 落とし物が戻ってきたならば、遺失者はまずしっかり反省すること、そしてきちんと報労金を拾得者に支払うことだ。

 私は財布というものを持たない。現金、カード、身分証明書を1つの財布に突っ込むのは、リスク管理がなされていないことだ。「卵は一つのカゴに盛るな」という諺がある。同じ原理で全ての貴重品を1つの財布や鞄に入れないのが基本中の基本である。

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