体感温度の中国経済(4)~ルールなき賭博場、焦燥感充満の社会

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 不動産の次は、株の話。株式市場、投資者、そして投資される方の三つ分けて話をする。

 まずは、株式市場。

 私のビジネススクール時代、「中国経済」の恩師であり、現代中国の代表的な経済学者である呉敬璉氏はこう語る。

 「中国の証券市場はまるで一つの大きな賭博場のようだ。しかも規範化されていない。賭博場でもルールがある。たとえば、他人のカードを見てはいけない。だが、中国の証券市場は、一部の人たちは他人のカードを見ることができるし、カンニングも詐欺もできる。株価操作やインサイダー取引、何でもあり・・・」

 法治下の制度やルールを無造作に、人治国家に導入するほど怖いことはない。制度化されていない社会に制度を導入すれば、制度はただちに悪用され、私利獲得の手段と化する。まさに、呉教授が指摘するように、中国の証券市場は、ルールなき賭博場だ。

 日本在住の私の某親戚は十数年かけてコツコツ貯め込んだ金を中国株に投じたら、いまは数百万円もの含み損を抱え込んでいる。早いうちに損切りしろと勧めているが、まだ一縷の希望を持ち続けているようだ。

 次は、投資者。

 「炒股」(チャウグー)――。中国語の「株式投資」は、「株を炒める」という。熱く炒めて、株価が上がったらすぐに売り切って逃げる。プロのデイトレイダーでもないおじいちゃんやおばあちゃんは一生苦労して貯め込んだ貯金をせっせと「ルールなき賭博場」に注ぎ込む。

 株価が下がったら、それは凄い騒動になる。社会安定上、株価相場の安定がまず必要だ。そこで政府は市場に介入せざるをえない。市場は市場メカニズムよりも介入で相場が動く。私が以前留学していた法学院でも、「証券市場への政府の介入度合」を専門研究するプロがいるくらいだ。

 中国の株式市場は、「政策相場」とも言われている。首脳陣の発言一つですぐに乱高下する。だから、中国株の投資は金融の勉強よりも、まず政治の勉強が必要だ。

 私自身は中国株には手を出さないし、香港の中国株ファンドをいくつか買ったが、そのほとんど売却した。

 最後に、投資される方と関係者

 投資者は、「炒股」というが、投資される方は、「圏銭」(チウァンチェン)という。つまりは、「お金を囲う、お金をかき集めてポケットに入れる」ということだ。

 企業を成長させ、社会貢献する云々よりも、短期間でIPO、株式公開させ、莫大な利益を手に入れることだ。そこでベンチャーキャピタルなどのブローカーだけでなく、政府関係者も暗躍し、金儲けの利益集団を形成するケースも珍しくないという。いままでの社会主義社会、計画経済下ではできなかったことを、資本主義の自由市場経済が可能にしてくれた。そこで法治下運用されるはずだった制度やルールが、やがて中国で一部の特権階級の金儲けの道具に成り下がるのである。

 権力の資本化、これが中国の特徴である。権力がいったん資本となると、あっという間に倍々に利益が膨らんでいく。不労所得、一夜にして億万長者に成り上がる連中らを目の当たりにする中国人民はやがて、コツコツ働くのがバカバカになってしまう。

 焦燥感――これがいまの中国。何もかも短期勝負。国家の大国化は経済実力のほか、もっとも重要なことに長い歴史に少しずつ積み上げていく、ビンテージの価値である。しかし、中国ではそれがない。

 サイクルの短期化、そして、物質的・精神的な有害副産物の大量発生。

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