私のアンコールワット、「未開」の観光地が持つ未開の魅力

 アンコールワット旅行に行ってきた友人から聞いた話では、沢山の観光客が殺到していて、一種の「万里の長城」状態だったという。

 私がカンボジア、そしてアンコールワットを訪れたのは、20年前の90年代半ば。その当時、シェムリアップは4つ星レベルのホテルもほとんどなく、閑散とした辺境の田舎町だった。アンコールワットの広大な遺跡群も、マニアックな欧米人旅行者中心に観光客は疎らだった。

 専属のガイドを雇って丸3日かけて遺跡を回ったが、それでも時間が足りない。一部遠方の遺跡は治安上の問題で、武装兵士付きでないといけないというので、一瞬心揺れたが、身の安全を考えて最終的に断念した。

 荒涼な遺跡だからこその遺跡で、古代のロマンに思いを馳せる。風の音に耳を傾けて、歴史の向こう側に逆走してイマジネーション全開するひと時に酔い痴れ、涙を流して感動を覚える・・・。

 私の記憶に残るアンコールワットは、おそらく二度と存在しないだろう。だが、この遺跡を目指してやってくる年間200万人規模の観光客は、カンボジアの経済に大きく寄与していることは間違いない。さらに2020年頃には400万人の来場者という予測もあって思わずぞっとした。

 同じく、私が1989年に婚約旅行で今の家内をタイのプーケットに連れて行ったとき、「プーケットってどこですか」と聞かれてしまったほどマイノリティーだった。当時の宿で、寂れたカロンビーチに聳え立つ白亜のアルカディアホテルは、今すっかり精彩を失ってしまった。そして、プーケットはすでに横綱級のリゾートとして君臨し、貫禄の存在になった。

 「未開」の観光地が未開のうちにもつ魅力は大きい。そんなフロンティアを求めて、さあ、次はどこに行こうか。