油条食して歴史論じる、遺臭消えるまで放置せよ

 マレーシアでは、この手の朝食が手に入るのが嬉しい。中国生活の長かった私は、油条と豆乳が好物である。「グルテンフリー」の全盛期だけに健康的ではないと言われても、好きなものは好きだ。

 日本風には、「揚げパン」というが、グルテンなので「揚げ麩」といった方が正しいではないだろうか。まあ、それはどうでもいい。「油条」は「油条」で、パリパリの食感が素晴らしい。さらに豆乳に浸して、油条が完全にふにゃふにゃになる直前に食べるのがうまい。あの「フニャッパリ感」はたまらない。

 もちろん、油条をお粥に浸して食べるのもよし、王道中華風朝食の定番だ。

 「油条」は中国で「油炸檜」という別名をもつ。「檜」とは、南宋時代に憂国の士を弾圧し、敵に譲歩した悪人奸臣、時の宰相秦檜のことらしい。その悪人秦檜に見立てて「油炸檜」が考案されたという説がある。要するに、悪人を沸騰の油で揚げ、とことん痛めつけてから食すという感情表現も込められていたのだ。

 正直、私が歴史を勉強したところ、むしろ当時の秦檜の政治判断が妥当だったのではないかとも思った。しかし、否応なく秦檜は悪人と断じられ、杭州の岳王廟(岳飛の廟)にも秦檜夫妻が揃って跪きの像が立てられ、かつてはこの像に唾を吐きかける習慣まであった。

 中国の場合、悪人とされた人間は「遺臭万年」になる。1万年にわたっても臭いのが消えないという亡き者に対して最大級の侮辱が善とされている。この辺は日本人の価値観とまったく相容れないものであろう。

 中国にとって、歴史問題は解決できないものだ。そこで、解決できない問題を日本人が解決しようとするから、問題をさらに複雑化させるのだ。

 解決できない問題は、解決しない。1万年放置することだ。残臭が消えるまで放置して、香ばしい「油炸檜」を食べよう。

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