【Wedge】凡庸な社員は去れ!ファーウェイはリストラで苦境を乗り越えられるか?

 ファーウェイの任正非CEOは1月18日付けで立て続けに、総裁弁電子メール006号と007号という2通のメールを全従業員に配信した――「苦しい時期に備え、凡庸な社員を解雇せよ」。穏やかではない。滅多に公式の場で姿を現さない任氏は最近自ら取材に応じたり、コメントを発表したり、派手に動き出している。ファーウェイはかなり追いつめられているようだ。

 中国系ウェブメディア「新浪財経」(http://finance.sina.com.cn/roll/2019-01-20/doc-ihqfskcn8783530.shtml)は1月20日付けで1万文字以上に及ぶ2通のメールを全文転載した。その抄訳(以下、太字で記載)を混ぜながら、話を展開したい。

● ファーウェイは苦境に立たされている

 メール配信の前日にあたる1月17日、任氏は複数の中国系メディアの取材に応じ、こう語った――。

「われわれがいま直面する一連の困難は、十数年前にすでに予想した。これに備えて十何年も準備してきたわけだから、今になって慌ただしく対処する必要がない。これらの問題はわれわれに影響はあるが、大きな影響ではないし、重大な問題にもならない。…(中略)外部の変化はわれわれに大きな影響が及ばない。われわれは自信があるからだ。われわれの製品は他社よりも素晴らしい。顧客は買わざるを得ない。例を挙げると、5Gのこと。世界で5Gを作れる会社は少ない。ファーウェイの製品はベストだ」

 自信満々ではないか。ここまで言い切っているのだから、何の心配もいらないはずだ。「苦しい時期」がやってくるのはなぜだろう。いささか矛盾を感じずにいられない。

 いや、よく言われているように、中国のことだから、「問題がない」と言ったら、問題あり。「影響がない」と言ったら、影響があることであり、「大きな影響ではない」ときたら、重大かつ深刻な影響が及んでいる、と理解したほうが正確だろう。任氏の発言には何の矛盾もない。ファーウェイは大変な苦境に立たされているのだ。

● 凡庸な社員は去れ!

 メディア取材は対外的な宣伝だが、メールは任氏が昨年(2018年)10月と11月に行われた社内経営会議での講話であった。幹部向けの講話を全社員に配布することによって、トップが直接に訴える切迫感がひしひしと伝わってくる。

「これからの数年、全体的な情勢は想像していたほど楽観できるものではない。われわれは苦しい時期に備え、様々な準備をする必要がある。5Gは4Gのような破竹の勢いをもたないだろう。18万人もの(ファーウェイ)従業員を養っていくために、毎年の賃金給料、賞与配当予算は300億ドルを超えている。これだけの食糧を生み出せなかったら、分配できる原資が不足する」

「こういう状況なのだから、どうすればいいのか?一つひとつのポストは食糧の多産・豊作と土づくりに照準を合わせる必要がある。照準が合わなかったら、その仕事の量を削減したり、あるいは一部のポストをカットしなければならない。(利益を生む場所への)資源の集中投下である。同時に、一部凡庸な従業員をリストラする必要もある。人件費の削減は欠かせない」

 深刻な状況である。10月と11月の経営会議での講話だったことから逆算すれば、米中貿易戦争が進み、ファーウェイも深刻な危機感を持ち始めた頃でもあった。12月1日の孟晩舟副会長の逮捕に先立って、任氏はすでに予感をしていたような雰囲気だった。さすが軍人出身の経営者である任氏の嗅覚は鋭いものだった。

 利益を生み出せないポストをどんどんカットする。経営合理化の一環として理解できなくもないが、「凡庸な従業員」がクビ切りの対象だと、そこまで明言するのは日本人にとって想像を絶することだ。日本人経営者がこんなことを言ったら、直ちに激しい世論の指弾を浴び、下手すると即時辞任に追い込まれるのがオチだ。

 経営について、社会主義国である中国の企業は日本企業よりも、はるかに資本主義的である。その反面、日本の温情経営はいかにも社会主義的ともいえる。

● ぶら下がり管理職のクビも切れ!

「会社の規模が大きくなれば、かならずぶら下がり組が出現する。このようなぶら下がり組が管理職になると、会社はどんどん硬直化する。なぜならば、硬直化すればするほど管理しやすいからだ」

 凡庸な従業員がリストラの対象となるだけではない。ぶら下がり管理職もクビ切りの対象だ。会社組織を硬直化させる元凶であるからだ。このくだりを読むと、日本企業のなかにも耳が痛くなるような管理職が続出する。

「ファーウェイを支えてきたのは、社内の開放性である。職位・等級も業績も、すべて公開する。なぜか? それは昇給するためだ。正しく昇給するためだ。プライバシーを公開したくない人は、降級になる。降級すれば、プライバシーは守られる。職位・等級が低いながらも、頑張っている人には、奉仕模範の称号を与えよう。ただし、われわれは市場経済だ。単なる奉仕者を必要としない。単なる奉仕者は思想倫理上の話であって、われわれの評価・考課システムはそこに価値を置かない」

 市場経済? 実に過酷な市場経済だ。日本社会は「努力」や「頑張ること」を善としているものの、ファーウェイのような中国企業は、成果を上げられない努力者を皮肉っぽく批判し、無情に切り捨てている。

● 労務すなわち財務

「この30年はわれわれは順風満帆だった。順調すぎたせいか、戦略的拡張の段階において、組織は悪性的に膨張してきた。…(中略)いまの苦境に直面し、全局観をもった組織のスリム化は欠かせない」

「『品質』とは何か? 成果の交付だけではなく、財務を中心とし、財務指標と財務的貢献を重視するものである。いま各地の拠点では多くのスローガンを挙げている。それはどうでもいい。肝心なのは財務だ。財務指標はどうなのか。全体的な貢献量より、1人当たりの貢献量をシビアに測るべきだろう」

 労務すなわち財務。多くの中国企業経営者は、そう捉えている。それは資本家の搾取本能といったらそこまでだが、実は終身雇用不在の中国社会では、労働者が企業に対しても財務的にしか捉えていないのだ。特に有能な人材ほど、個人に対する財務的評価と処遇を求めている。この辺は決して労使間のミスマッチが存在しているわけではない。むしろ、現実を正しく認識できていない日系企業に問題があるのだ。

● 軍人経営者と軍隊型の企業経営モデル

「組織を構築し、突撃を先導する。5年から10年の時間で内部の世代交替を実現すれば、ファーウェイはサバイバルできるだろう。…(中略)馬車に乗る人よりも、馬車を引っ張る馬がより多くの利益を得るべきだろう。これなら新人も突撃の意気込みを持てる。AI(人工知能)が進み、人を減らし、そこでパイが大きくなる。苦労してきた私たちと違って、若い人たちは当初から自動車を運転するわけだ。彼たちが怠けてしまうかどうかは、内部の制度とメカニズム次第だ。良い制度があれば、世代交替しながらも、一波一波と突撃していける」

「人的資源(人事)部門とは何か。主力部隊のアシスタントだ。作戦には資源が必要。人的資源部門はその資源に責任を負う。『資源』とは何か? 優秀な従業員(各職級の中核+英雄+リーダー)と合理的な作戦編成。故に、人的資源系統は改革と業績に重点を置く必要がある。組織の活性化、リーダーの選抜、英雄の評定が仕事の中心だ。ほかの事務的な仕事は外注にすればいい。枝葉末節と中核業務を切り離すことが重要だ」

「照準を合わせる」から、「作戦資源」や「主力部隊」「作戦編成」「英雄」まで、軍人出身の任氏はいつまでも、軍人的な発想で企業経営に取り組んでいる。軍事強国となった中国には、このような筋金入りの軍隊型企業経営モデルが存在している。これを考えると、鳥肌が立つ。

 ファーウェイは西側諸国に狙い撃ちされている。だが、戦闘や戦争を前提とし、あらゆる犠牲をも経営プランに折り込んだこの軍隊型企業はそう簡単に潰れるのか。決して予断を許さない。

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【追記】

 読者のコメントを一部転載する。

● 流石は軍人出身なだけあるね。頭良いフリしたゴミ屑が多いからね、賢明な判断だ。別に味方する訳ではないが、このスピード感に勝てはしないだろう。凡庸な社員は去れ!ファーウェイはリストラで苦境を乗り越えられるか?

● 一人の経営者としてはめちゃ優秀だろう。日本の経営をしない経営者にも読ませたい。

● 支持しといた。 面白い。 ファーウェイの任正非CEOのメッセージには、考えさせられる内容が多く含まれている。 経営者として、これほど強いメッセージを打ち出せることには感服せざるをえない。 日本の経営者は、ビジネスマンは、彼からいろんなことを学べるに違いない。

● 中華系企業が好きなわけではないですが、日本企業もこんくらいやって欲しい。 経営状態が芳しくない大手なんか大抵は上に行くほどぶら下がり。 硬直するほど管理がしやすいは正に名言。 ぶら下がりの椅子を巡った社内政治も上に行くほど狡猾なのが増えて、ある意味で才能も努力も必要で競争も大変だけど、それを勝ち抜いても資本主義社会では生き残れない。 そりゃ衰退するわけです。

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