【Wedge】トランプを読み解く(8)~独裁者のどこが悪い?トランプ流の問題解決法に学ぶ

<前回>

 ここのところ、私の企業マネージャー研修カリキュラムには、「トランプ流の問題解決法」が事例学習としてよく取り入れられている。トランプ氏はビジネスマン出身だけに、大統領になっても経営者感覚で国の運営や外交に当たっている感が否めない。

 企業経営も国家運営も原理的に相通ずるものがあるが、本質的な違いは独裁と民主の体制基盤にある。資本主義制度下の企業は株主の所有物であり、その経営の権限を経営者に付与した以上、不正を牽制する監査機能があっても、経営上の意思決定は経営者の独裁ベースで行われるようになっている。

 トランプ氏はこの経営者スタイルを政治の場に持ち込んでいるので、メディアや学者など多方面から反感を買うのも無理はない。さらに経営者には、その独裁的立場からして、古来の「帝王学」あるいは独裁を前提とする統治技術にあたる「君主の政治学」を学ぶ必要が生じる。これは戦後の日本人経営者に欠落している部分でもある。

● 分断統治の手法

「Divide and Conquer」、日本語にすると「分割統治」という。これは「ヒト」と「コト」という2つの意味に分けて考察したほうが分かりやすいかもしれない。

 まず、「ヒト」。少数の支配者が大多数の被支配者に統治を行うにあたり、被支配者を異なる利益集団に分断することで、統治を容易にする手法である。被支配者同士を争わせれば、支配者に矛先が向かわなくなる。

 帝王学の「必修科目」である。ここでは「分割」よりも「分断」がより適切なので、私は「分断統治」という言葉を使っている。「分断統治」の起源は、デカルトの法則まで遡ることができる。一体化された集合体を、容易に問題解決ができるように、あえてできる限り細かなグループに分断(分割)する法則である。

 被支配者の連帯は力量の集結によって、支配者の地位を脅かす存在になり得る。古代ローマ帝国は、支配下に置かれた都市相互の連帯を禁じ、都市毎に応じて処遇に格差をつけ、このような「分断統治」によって、征服した都市からの反乱を抑えることに成功したのであった。19世紀以降の欧米の植民地経営もまた然り、この原理を応用した。

 逆方向の反統治側においても、「分断」の概念が用いられる。マルクス主義の唯物史観は、労働者階級と資本家階級の分断による階級闘争を中核として打ち立てられた理論だ。これはまさに、支配階級の打倒を目指す反対方向の「分断」であって、「分断」による「反分断」である。

 マルクス主義の良き実践者である毛沢東も、農民に対し「地主・富農・中農・貧農」と細かく階層を設け、対立・分断を図った。しかし、毛沢東はいざ政権を掌握し、被支配者から支配者に転じた途端、被支配者となる広義的人民(労働者階級)に対して分断統治をはじめた。彼はでっち上げられた「人民内部矛盾」という概念を拡大解釈し、異見を唱える層を敵対勢力と見なし、その対立を「敵我矛盾」と位置付け、人民の力を動員して打倒に乗り出す手法を使った。文化大革命はその好例だった。

「分断」という概念は今日において、善悪のどちらかというと、悪に分類されるほうだが、その原初的意味、つまり「帝王学」における統治技術論の1つとして捉えられた場合は、むしろ中性的なもの、あるいは「必要悪」ないし「相対善」と位置付けられていた。

「トランプは米国民を分断させようとした!」。このような批判が世間を賑わせたところで、あえて「分断統治」を説く帝王学次元の冷徹な視線で見れば、善悪を分別する余地がないことが分かる。

● ボールを国民に投げる

 トランプ氏の大統領就任演説。そのエッセンスは次の1節に凝縮されている。各メディアでは「国民に権力を取り戻す」などと訳されていたが、原文を吟味して私は独自に訳してみた――。

「今日の式典は、単なる政権交替でもなければ、政党交替でもない。権力の移行であり、権力を首都ワシントンからアメリカ国民に返すときであります。……長い間、国民がコストを負担しながら、政府関連の一握りの連中が甘い汁を吸ってきました。……」

 ボールを国民に投げる。国民はこれまでコストを負担しながら、一握りのいわゆるエリート集団が代わりに政策を決定し、その利益を独占してきた。ならば、コストを負担する国民が自ら政策を決定すればよい。このために決定権を国民に移行する。これによって、ボールをキャッチした側には、権力とリスクが双子として生まれる。代議制民主主義の下で政治家が取るべきリスクを、トランプ大統領は密かに国民に転嫁したのだった。

 TPPの離脱、メキシコ国境における「万里の長城」の構築、反グローバル的な保護主義。いずれもトランプ大統領の乱暴な愚策だと、エリート集団もメディアも一斉に批判しているが、この愚策の源は有権者の自己利益(個々の私利)の総和に過ぎないと、トランプ氏はそう解釈しているようにも見える。

 米国民の分断を危惧する声も多かった。いや、もともと分断されていた。そもそも異なる利益集団の存在が「分断」の証左だったのではないか。分断など消えたことは一度もない。さらに言ってしまえば、一定の分断を生かして被支配者を支配することは、帝王学の基本でもあると、トランプ氏はひそかにそう考えていたかもしれない。

● 分割による問題解決

「分割統治」の「コト」版とは、そのままで解決できない大きな問題をいくつかの小さな問題に分割し、一つひとつ解決していき、最終的に問題全体を解決する、という手法である。

 政治家が打ち出す公約。いってみれば、問題の集合体でもある。これらの公約を、実施の難易度や問題の性質に基づいていくつかの問題グループに分割し、解決していく。

 前提は民意から大きく乖離しないこと。たとえその民意がどんなに馬鹿げたものであっても基本的にそれをフォローすることだ。保護主義や孤立主義に傾く民意は問題のある民意かもしれないが、それでもトランプ氏はストレートに受け入れ、その民意を公約に反映させようとした。いくら民主主義制度の下で選ばれたトップといえども、理性的な政治家ではなかなかできないことだ。

 結果からいうと、トランプ氏は大統領に就任してからの2年間で、選挙時に掲げた公約の大半を達成した。非常に優秀な成績と言わざるを得ない。経営者としての問題解決力は評価されても良さそうだ。

 問題の分割解決にあたっては、その問題の分割方法と解決の優先順位が非常に重要である。問題と問題の間に関連性があったりなかったりするからだ。問題Aを解決したことによって、問題Bの解決に有利な条件を提供し、問題Bを連鎖的に解決できることがある。逆に最初から問題Bに着手した場合、大変苦労したり、あるいは問題Bを解決したにもかかわらず、問題Aに関連性が薄い故に、問題Aの解決になお多大な労力がかかったりすることもある。

 問題の本質とかかる諸要素の関連性を見抜く力が必要だ。たとえば、米朝交渉の席から立ち去る姿勢を見せ、それによって米中交渉における主導権と優位性を確立し、さらに米中交渉の妥結を安易に目的とせず、米中貿易戦争の最終的戦勝にパースペクティブ的な視点を据えるというアプローチ・チェーンを見る限り、トランプ氏はその能力に長けているようにも思える。(参照:米朝決裂をどう見るべきか?不敗の交渉と深遠な謀略

● TPPよりも2国間交渉を好む理由

 トランプ氏は躊躇なく、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の離脱を決断し、その代りに2国間交渉を好んだ。その理由も「分断」「分割」の原理に通じている。12カ国も一括して交渉するよりも、各国と個別交渉し、いわゆる「各個撃破」の手法を取ったほうが有利だとトランプ氏が考えたのだろう。

 経営者は一般的に労働組合との団体交渉よりも、労働者との個別交渉を好む。なぜならば、個別交渉の場合会社がより強い立場に立てるからだ。逆に労働者は経営者に対して、対等の立場で労働条件の維持・改善を主張するために、労働組合による団体交渉を好むのも同じ原理に基づく。

 TPPからの離脱も一種の「分断」である。自ら分断を受け入れ、他の11カ国にある種の「痛み」を作る。そこで、いざ復帰交渉になれば、米国がより有利な立場に立てる。したたかなトランプ氏はそう考えていたかもしれない。2018年4月16日、トランプ氏は離脱を決めたTPPについて、オバマ前政権下で合意した条件より「大幅に良くなる場合」には復帰を検討しても良いと表明した。もちろん、彼は老獪な交渉家であるから、すぐには実務交渉に持ち込もうとしなかった。「分断」状態を意図的になるべく長く引き延ばそうとした。

<次回>

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