インバウンド、中国人観光客誘致の落とし穴

<本文は2009年3月執筆したものである>

● 中国人は、温泉好きですか?

 温泉なら誰でも入る時代だ!(台湾・中国時報より)

 コンサルティング業務をやっていると、顧客は、企業だけでなく、日本政府関連機関からの問い合わせや依頼もある。一時期、何か所から依頼を受けたこともあったたが、いまは、基本的に受けていない。原因は、結果ありきの調査や助言を期待されることが多く、期待に添えない結果を報告するのが、あまりにも心苦しいからだ。

 たとえば、中国人観光客の誘致について、メディアも盛んに取り上げていますが、私は、あまり楽観視していない。現状の日本は、中国人観光客を大量に受け入れる体制が整っていないと思っているのである。

 上海でも、日本観光のイベントなどをやると、必ず日本といえば「温泉」が挙げられる。まず、中国人は本当に温泉が好きなのか、私はノーだと思っている。日本という国のイメージは何かと中国人に聞くと、「火山」、「温泉」という回答が戻ってくる。つまり、日本観光に行くとすれば名物である「温泉」がはずせない観光スポットだという認識です。しかし、そこで「見る温泉」と「入る温泉」の区別が大きいことを忘れてはならに。

 北海道の某有名温泉街にある大型温泉ホテル(小型の旅館ではなく大型ホテルです)が中国人観光客(現状(2009年現在)、大陸よりも台湾観光客が大多数)の誘致にかなり成功していると聞きつけ、私はそのホテルを訪れた。確かに凄い。何よりも大型温泉プールに、中国(台湾)人観光客の家族がカラフルな浮き輪を浮かべ、歓声を上げているではないか、食堂を見てまたびっくり、人民大会堂に匹敵する巨大会場に中華と西洋料理を中心としたバイキングほどエネルギッシュなものはない。

 日本人にとっての温泉は何か、ここ数年人気の高い黒川温泉をはじめ、ゆったりとした「癒し」がそもそも日本人の温泉好きの原点だ。温泉文化のない中国では、最終的に「癒し」よりもエンターテイメント色の濃いものとなるしかない。

● 橋本元高知県知事の素人発言

 少し前の話になるが、四国が中国人観光客の誘致キャンペーンを打ち出し、橋本大二郎元高知県知事は、「四国には、青い海があって、中国人観光客の誘致に絶好の条件をもっている、どんどん道路や空港を整備し、中国人観光客を受け入れよう」という主旨の発言があった。

 「青い海」を見せるために、道路や空港を作るということだが、果たして中国人が四国の「青い海」を見に来るのだろうか?
中国は青い海が少ない、これは紛れもない事実だ。多くの中国人が「青い海」への憧れをもっている、これも紛れもない事実だ。

 そこで、問題。中国人が憧れている「青い海」とは何かだ。これは、マーケティングの原点ではないか。このマーケティング調査は、橋本元知事はしたのだろうか?

 「青い海」といえば、モルジブ、ハワイ、タヒチ、グアムにサイパン、少し豪華な南仏のコートダジュール、地球の反対側なら、メキシコやバハマなどカリブ海諸国……。

 では、モルジブと四国、同じ旅費で「青い海」を見に行くのなら、中国人観光客は、どっちに行くのだろうか。四国には四国の良さがある、何もモルジブと比べることはない、といえばそこまでだが、結果的に大部分の中国人観光客は、モルジブを選ぶに違いない。

 理由は1つ、モルジブの美は、「視覚美」であり、目だけで十分に認知できる美である。しかし、四国ないし日本の美は、「視覚美」よりも大きな部分は「感覚美」であり、それを知るために目だけでなく心がもっとも重要なのだ。同じ文化基盤をもつ島国単一民族の日本人は、何よりもあうんの呼吸で「和の心」を体得する感覚をもっている。この感覚の存在を、ほとんどの日本人自身すら感知しない。だからこそ、知らないうちに、ごく自然に他人に同じ感覚を求めてしまう。しかし、この感覚を、中国人に求めても、一般的な中国人は持ち得ない。

 消費者に合わせて商品を作るか、それとも、商品に合わせて消費者を変えるか。橋本元知事は、『知事-地方から日本が変わる』という大変素晴らしい著書がある。しかし、地方から日本が変わっても、中国は変わるのだろうか。

 消費者文化への宣戦布告は、勇者の壮挙ではあるが、成功の見込みはあるかどうかは別問題だ。

● 白菜、角煮、金閣寺と銀閣寺

 「肉3枚、白菜5個!」
 「私も、私も、・・・」

 八百屋でもなければ、肉屋でもない。ここ場所は、あの格調高き台北・故宮博物院である!取引されているのは、有名な収蔵品である「翠玉白菜」や「肉形石」(豚の角煮石)のレプリカの土産。買い手は、もちろん中国大陸の観光客。

 3月中旬。2008年7月に中国人観光客の台湾観光ツアー解禁以来、最大規模となる1600人の団体客(アムウェイ中国関係者)が台湾観光にやってきた。一行は台北や花蓮、日月潭などを回り、テレビや地元紙は「各地でいくらお金を落とした」、「どんなお土産を好んでいた」、「台湾を美しき宝島と絶賛していた」といった内容を大々的に報じた。

 台北の故宮博物院は、「翠玉白菜」や「肉形石」などのレプリカの土産だけで、半日にして数百万円単位を売り上げているそうです。中国人観光客の誘致で、日本にとって一番の強敵は、台湾である。同じ中華文化のルーツを持つ台湾は、日本より優れた先天的条件に恵まれているかもしれない。台北故宮博物院の収蔵品レプリカから、屋台街の「小吃」まで、そのまま、商品を再包装することなく、大陸の観光客に喜ばれる。

 しかし、日本はどうでしょうか。京都の庭園を見て、懐石料理を食べて、感動の声を上げる中国人観光客は、何人いるのだろうか。私は、中国某地方のお偉いさんたちを、京都を案内したことがある。清水寺を見ても、京料理を食べても、本心で感動してくれない。唯一喜んでもらったのは、金閣寺。

 「ほう~、これは、すごい、金ぴかの寺じゃないか、本物の金?」と根掘り葉掘り、大変興味を示す。
 「あれっ、立花さんよ、金閣寺といえば、確かに案内書に銀閣寺もあると書いてあるんじゃないか。次、銀閣寺行こうよ!」
 そして、銀閣寺到着。
 「えっ?これは銀閣寺?銀はどこ?」、不満だらけの彼たち。

 後日、京都観光PR担当の某役人(日本人)が私に聞く、「立花さん、中国人観光客に、京都の何が一番良いと思いますか?」「金閣寺と、一見さんお断りのお茶屋です」と、私は、考えもせずに答える。金閣寺を背景に写真1枚、そして、祇園に行って舞妓さんや芸妓さんと写真1枚、これで中国人観光客にとって、最上の京都の思い出になるだろう。

● 台湾の観光業者が共倒れに

 早速、台湾の観光業者は、中国人観光客の受け入れに悲鳴を上げ始めた。「値切り、客奪い、悪性循環。半年以内に、台湾の観光業者は共倒れに」、2009年3月22日付台湾・中国時報が現場の情況を生々しく伝えました――。

 「起床は鶏より早い、移動は馬より速い、食事は豚(の餌)より悪い」

 中国人観光ツアーの現状です。業者は、1人1日当たり45米ドルという破格の低料金で中国人観光客を引き受けている。完全にコスト割れ。赤字でも、客を確保するのは、生き残りへの最後の賭けだ。結果は、想像するだけで分かる。中国人観光客は、観光スポットの数でツアーの値打ちを評価する。たくさん回れば回るほどよく、とにかく、写真取りと土産購入で満足する、このような現状だ。

 値切りは、凄まじい。品質よりも価格、値札の1割、2割から値切るのが当たり前。値切り達人の大阪人も真っ青。品質重視の業者は、まず激戦から敗退する。

タグ:

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です。