寝る前に手の爪が伸びたことに気づき、明日は爪を切る日だとつぶやいたら、妻が親切にリマインダーを書いてくれた。
翌朝、事務室のメモ書きをみると、思わず吹き出した。「瓜を切る」と書かれているのではないか。瓜はどこだと妻に問い詰めたら、彼女も笑いこけた。
「瓜に爪あり爪に爪なし」ということわざがあり、まさにその通りだ。で、そこから一歩先に進むと、爪を切ったら瓜になり、瓜を切ったらどうなるか?売りになるのだ。
「売り」とは「価値」を意味する。現代の人はあらゆる事(コト)物(モノ)に価値をつけて売りにする。瓜だって、単なる食べ物ではない。カービングを施せば、ただの瓜が芸術品として国賓を迎える晩餐会のテーブルに上る。爪は?ネイルという、これもカービングに負けないアートである。
カービングもネイルも、これらを生業とする専門家がいる。だが、コロナでともに大きな被害を受けている。宴会業も美容業も規制されたから。少人数の外食がOKでも宴会はダメ。ヘアカットがOKでもマニキュアはダメ。いわゆる「エッセンシャル(essential)」なサービスしか認められないわけだ。
「エッセンシャル」とは、生命維持や基本生活上の絶対必要な、不可欠な部分を指している。様々な付加価値を排除した部分である。しかし、現代サービス業の大きな部分は付加価値に頼っている。これらが無情にも排除される立場に置かれたのだ。
付加価値の排除。――われわれの常識に反している何かしらの示唆を、コロナが与えてくれた。それは何であろうか。