日経新聞の報道に問題指摘、中国労働訴訟ははるかに複雑だ

 09年8月4日付日本経済新聞掲載の「中国労働訴訟3割増」に、このような記載がありました。

 「・・・同市(広東省東莞市)の工場で6月、労災事故に遭った従業員が賠償を拒んだ社長ら2人を刺殺」

 それが、もしや私がブログに書いた「2009年06月18日 東莞台湾人総経理殺害事件、社員がなぜ老板を殺したのか?」の事件であれば、少し状況が違っていました。

 会社が労災事故の賠償を拒んだのではなく、賠償金額について交渉が折り合わず、裁判所で係争中にもかかわらず、判決を待たずに、従業員の劉漢黄さんが会社の幹部を刺し殺した。

 私の事件データファイルによると、以下の経緯になっています。

 2009年5月、劉漢黄労災賠償事件に出された一審判決は、賠償金額17万7293元という高額なものでした。会社側が不服として上訴した。上級審裁判所は、一審判決に基づき、財産保全命令を出し、会社側所有の17万元相当の機械に仮差押を行いました。二審(終審)判決では劉漢黄に有利な判決が出されれば、仮差押もあることで、執行を申請してお金が手に入ることは間違いない。

 なのに、なぜここで判決結果を待たずに人殺しをしたのか、誠に不思議でした。会社側の抗弁を見ると、「劉は、労働契約に署名し、本人自身の都合で社会保険の加入を放棄した」と、情状を説明し、一審判決の取り消しを求めていることが分かります。地方から沿海部に出てきた出稼ぎ者は、社会保険を出稼ぎ先で納付しても、掛け捨てになるから、それが嫌で本人の意思で不加入することが多い。これは、そもそも中国全土の社会保険が統合されていない故に生じた歪みでした。

 ですから、中国の労働紛争は非常に錯綜複雑です。劉漢黄労災賠償事件も謎が多い。本件について、「労災事故に遭った従業員が、賠償を拒んだ社長を殺した」という報道は、あまりにも短絡過ぎるように思えます。せっかくの報道は、もう少し掘り下げてほしかった・・・。

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