岸田政権は向こう5年間で43兆円のという巨額な防衛費予算を決めた。金額云々以前の問題で何のための予算かというと、軍事的衝突ないし戦争を想定して日本の防衛力を強化するための予算であろう。
では、防衛力の強化とは何かというと、12月16日夜の記者会見に岸田首相は防衛力の抜本的な強化について、「端的に申し上げれば、戦闘機やミサイルを購入するということだ」と述べた。
なるほど、より精鋭な武器を装備し戦争に勝ち、国家を守るという趣旨は非常に明確で理解できる。では、質問。戦闘機やミサイルといった武器だけで戦争に勝てるのか?相手が中国であれば、まず中国の思考法、内在的論理でものを捉える必要があろう。
21世紀の戦争について、中国は「超限戦」という概念を打ち立てている。『超限戦 21世紀の「新しい戦争」』(喬良・王湘穂著 角川新書)という書は、以下のように述べている(主旨)――。
軍事と非軍事――境界を曖昧にする手法が21世紀の「戦争の形」である。超限戦とは、「戦争と非戦争」、「軍事と非軍事」という全く別の世界の間に横たわっていたすべての境界が打ち破られる在り方を指している。「非軍事の戦争行動」は、貿易戦、金融戦、そして新テロ戦という3つの主な形態が含まれている。
貿易戦では、日本の経済的中国依存、とりわけサプライチェーンの一部を切断しただけで、日本は耐えられるかという深刻な問題が横たわっている。先般の「ゼロコロナ」政策によって、中国はすでにサプライチェーンの寸断から日本や西側諸国に与え得る影響を存分に検証したことだろう。
中国が日本南西のどこかの島嶼を武力侵攻、占領すれば、間違いなく日本国民の対中敵対心・敵愾心を燃やし、連帯感を強める結果につながる。逆に経済面で貿易戦を動員して日本国民の暮らしに不利益を与えた場合、どうだろうか。その場合は、日本が中国に先制攻撃を仕掛けることができるのだろうか。
貿易戦はスポット的に始め、じわじわと拡大していく。日本がすでに米国の対中制裁(例:半導体)に加わっていた場合、中国は対抗措置という大義名分を手に入れる。さらに中国は在中日系企業に手を付けることもできる。センシティブな事項なのでこれ以上の言及は避けよう。
このように、中国が「非軍事の戦争行動」で日本を追い詰める。日本が仮に43兆円をかけてどれだけ精鋭な戦闘機やミサイルをアメリカから購入しても、使い道がない。
貿易戦が長く続けば、日本国内に分断が起きる。ただでさえ貧しい日本人をさらに経済的困窮化させる。今の日本人は耐えられるのか?日本国民には「経済的玉砕」の準備ができていると思えない。民間の不満、経済界の不満が政治に向けられると、政権が持たない。これが民主主義の最大の弱点である。
台湾占領があっても日本占領はしない。これが鉄則。中国は「戦争経済学」に精通しているから、よりコストの少ない方法を使う。西側諸国が考えているのは、「決戦型」戦争だが。中国が得意とするのは「敵の分断」と「持久戦」である。
最後に、43兆円の防衛費の使い道に触れておこう。単に戦闘機やミサイルをアメリカから購入するのだから、喜ぶのはアメリカだけ。軍備の内製化、日本国内軍事産業の強化政策を打ち出せば、それは国内経済に寄与し、さらに武器の輸出でもすれば、大変結構な話だが、残念ながら、そうなってはいない。
武器さえ買えば、戦える。考えはあまりにも短絡的すぎる。