トヨタはなぜ日本を諦めるのか?

 『トヨタは日本を諦めつつある 豊田章男社長のメッセージ』(2023年1月1日付ITmediaビジネス)という記事からショックを受けた人が多いなか、よく考えれば、必然的帰結ではないかと思う。

 3年前、トヨタグループ幹部社員向けの講演会をきっかけに、トヨタとのつながりができた。章男社長に「諦めムード」が漂い始めた背景は非常に複雑で、自動車産業の問題もあれば、政治や組織の問題もあり、絡み合っていると推測する。

 一言でいえば、「正しいことが分かっていても、正しく推進できない」日本に対する失望ではないかと。正しいことを正しくやり遂げるための取引コストがかかりすぎる。私自身は、日本を諦めて、1994年に海外へ出てきて30年になる。30年前の「諦め」が正しかったと思っている。

 日本は変わらないし、変えることもできないから、「諦め」がもっとも実効性があって省コストだ。

 日本人は未だに中国に負けたという事実に向き合えないでいる。先日、SNSでこんな投稿を見た(主旨)――。「日本人の給料が20年以上も上がらないのは、中国のせいだ。中国人の給料が安いから、日本企業がこぞって中国に行った。日本のあちこちに100円ショップができた。だから、中国が悪い」

 笑わないでほしい。一見馬鹿げた論理ではあるが、論理よりも当事者の心理を知るには良いチャンスだ。その論理を裏返してみよう――。中国人の給料もだいぶ上がったので、それで日本企業は帰ってくるのか?100円ショップが1000円ショップになり、日本人の給料も上がるのか?なぜ、そうならないのか?

 自動車産業も然り。日本最後の砦である自動車産業は衰退し、中国勢がEV市場を席巻する。これもSNSで見かけた投稿だが、こう書いてある(主旨)――。「日本の自動車産業は負けていない。ガソリン車の残価率が断然良い。中古車市場にはEV車が進出する余地がなく、やはりガソリン車だ」

 これも笑ってはいけない。日本が中古車市場の世界一位でも狙うならば、あり得る戦略ではあるが、ただ50万円台のEV車が出回った時点で、車はパソコンと同じレベルになる。会計上、パソコンは4~5年で償却するのだから。

 人間は失敗や不幸の原因を他人になすりつける習性がある。それはどうでもいい。肝心なのは幸せになる方法ではないか。それに先立ってまずは失敗を認め、敗因を追及することが前提なのに、多くの日本人はすでに原点を見失ったのである。

 車の話に戻るが、エンジン屋出身のホンダは、「脱エンジン宣言」あるいは「打倒トヨタ」で、自ら退路を断って背水の陣を敷いた。一方、エンジン車へのセンチメンタルな愛着は、間違いなく将来的にエンジン車の準ニッチあるいはニッチ市場につながるだろう。エンジン車市場は消えることはない。ただどこまで縮小するかが問題。そして、トヨタは現在の世界的マス車大量生産の体裁が維持できなくなる。それにどう対応するかが見所だ。

 日本人は車を「車」として考えているから、いけないのだ。車は、コンピュータであって、4つのタイヤのついたコンピュータに過ぎない。移動ロボットだ。

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