戦争を引き起こすのは誰?民主も独裁も変わらない

 宮台真司氏『なぜ民主主義になったのか?』は、本質を突く話である。僭越ながら、すこし補足、展開させてもらいたい。

● 宮台氏の主旨――。

 太平洋戦争は、上からやれと言われて、日本国民が仕方なくやったわけではない。国民が戦争をやろう、大陸進出しよう、米欧鬼畜を叩き潰そうと熱狂的だった。言うならば、日本国民全員が軍国主義者だった。そういう民意を前提に、軍部と天皇が戦争をやった。

 しかし、日本は戦争に負けた。誰が悪かったかというと、日本国民のほぼ全員が悪かった。しかし、なぜ、軍部のトップ層だけが「A級戦犯」になり、処刑されたが、国民と天皇は免罪になったのか。それはアメリカが設計した仕組みで、国民も天皇も悪くなくて、軍部だけが悪かったと。

 天皇は「これからは民主主義をやろう」と音頭を取らなければならないし、日本国民全員が国家再建に取り組まなければならないから、「悪くない」とする必要があるからだ。アメリカの戦後体制は、良いも悪いもない。それで日本は戦後復興し、西側の一員になったと。言ってみれば、日本人は盗んだ飯を食っちゃったもので、何を言えないのだ。

● 立花の補足――。

 アメリカは実務的かつ米国利益の観点から、善悪はなく、正しい戦略を取った。それを裏付ける理由(理屈)があるとすれば、次になる。戦前の日本は、民主主義国家ではなかった。非民主主義国家・独裁国家の過ちや罪は、国民がその責任を取る必要はないからだ。軍部が国民の代理として罪を償うという理屈だ。

 しかし、ドイツはどうだ。国民主権主義を採用するワイマール憲法(の影)の下で、戦争が起きた。ドイツ国民もほぼ全員が戦争に熱狂的だった。なぜヒトラーら上層部だけが責任を取らされたのか。同じく、ヒトラー指導部だけが悪かった、ドイツ国民は悪くなかったという論理が通用してしまう。

 日独に共通点があるとすれば、それは「民意」、戦争を支持する熱狂的な民意だった。もし、独裁政権が民意を無視し、「こら、馬鹿国民ども、戦争はあかん」と一喝して戦争の発動を拒否したら、その独裁政権は、平和の天使になり、善ではないか。民意の暴走を食い止められるのは、独裁だけだ。

 でも、ちょ待てよ。そもそも民意の暴走は独裁者の煽動とプロパガンダがあってのことではないか。ほらほら、常に責任逃れしようとするのは愚民だ。そもそも愚民でなければ、煽動とプロパガンダに乗せられることはなかったじゃないか。

 このように、民主政権も独裁政権も単なら支配形態の相違にすぎない。愚民はいつまでも愚民であることだけは共通している。民主主義も独裁専制も同じように危ない。米中の善悪二元論を口にするのも、何もかも政治に責任を擦り付けるのも、愚民の証だ。

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