上海(9)~レバ刺しや鶏刺しよりも野菜が危ない、食の安全とリスク

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 友人に紹介された上海の焼鳥店「頑固親父」の暖簾をくくる。焼鳥よりも「鶏刺し」にまず釣られてしまう。「野獣型」人間である私は、肉の生食が大好き。日本で禁止されたレバ刺しも、海外のあちこちで私は食べ続けてきた。鶏刺しは日本で禁止されていないが、危険性が高いとして、いろんな議論が交わされている。将来的に禁止されてもおかしくないだろう。

上海「頑固親父」(以下同じ)

 危険性、リスクがあるから、やめようというのが日本的なやり方。最終的にレバ刺しのように法律を作って全面禁止する。食の安全や国民の健康のために公権力が介入する。というのはあたかも正論であるかのように聞こえるが、実はその反面、国民の思考・判断力ないしリスクテイクの自由を奪い、国家への依存心を高めるマイナス作用がある。

 私も当然、〇〇刺し食いのリスクを知っている。当たる蓋然性を見積もったうえで、経営者や店舗の経営スタイルなども参考にしつつ、最終的に食べるか食べないかの意思決定をするわけだ。言い換えれば、危ない食べ物だからこそ、経営者が余分に注意を払っているかどうかをチェックすることが何より大事だ。

 大方の日本人は、リスクを悪として扱う。しかし、リスクは世の中から消えることはない。人間はリスクを排除することができないので、リスクとの共存を受け入れ、リスクとの正しい付き合い方を身につけていくのだ。成熟した国民を育てるためにも、このような教育が必要ではないかと。

 食の安全をいうなら、もっと深刻な問題が放置されている――農薬問題。情弱、思考停止に陥っている大方の日本人は未だに農産物について「国産が一番安全」を信じ込んでいる。しかし、残念ながら日本は、農薬漬けと言って良いほど、世界有数の農薬大国だ。農地1ha当たり11.8㎏の農薬を使っている(2018年国連食糧農業機関(FAO))。中国とほとんど変わらない、世界トップクラスの農薬使用量を誇る。

 生肉の〇〇刺しで当たる偶発的な蓋然性と全国民が食す農産物の広範性。天秤にかければ、損得が明白だ。しかし、なぜ日本は農薬使用基準を大幅に上げる法律を作らないのか。それを真剣に考え、判断できる日本人が少ないのが残念な現実である。

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