先礼後兵。――まずは礼を尽くし、それでも通じないなら、最終的に強硬手段に出る。
中国のことわざであり、紳士的なアプローチである。小さなところ個人間や企業間の付き合いから、大きいところは国家間の外交にも通じる。「礼」とは、謙遜や謙譲。程度が進めば、一部損失を引き受けるときもあれば、日本式の「忍耐」という場面も多々ある。
「礼譲」という中国語。礼とは「譲る」「譲歩」することである。しかし、一歩も譲らない。すべて自分の論理を通そうとし、100%総取りすることは「礼譲」とならない。現代社会では、企業経営者も国家指導者も立場上、譲ると言うと、直ちに内部から批判が殺到するので、なかなか「譲れない」ときが多い。
不識抬挙。――礼節を持って接遇しているのに、人の好意を無にする。
もう1つ中国のことわざ。一歩も譲らないというのは、人の好意を無にすることである。当事者はそれぞれの言い分、論理がある。いつまでも異なる論理を戦わせたり、一歩も引かなかったりすると、最終的にさらに苛烈な戦いにエスカレートする。そうすると、必ず損害が出る。場合によっては、譲る分よりはるかに大きな損害が出たりもする。
一歩も譲らないことは、非常に欧米的である。たとえば、米国の意志が支配するウクライナはその好例だ。クリミアを含めてウクライナ全土からのロシア軍撤退を停戦条件としている。戦争の論理はそれぞれある。しかし、ロシアが完全撤退したら、いままで投入してきた資源や犠牲がすべて水泡に帰す。これはロシア国内では容認されない。プーチン政権の崩壊をも意味する。
一歩も譲らないことは、欧米的だが、最近そういう日本人(企業)も散見される。「損して得取れ」という儒教的な教えを忘れ、100%総取りしようとする。つまり、ゼロサムゲーム、得点と失点の総和(サム)が0(ゼロ)になるゲームのことである。これはどうなるのだろうか?
敬酒不喫喫罰酒。――丁重に勧められた酒は断り、罰として押し付けられた酒は飲む。
「礼譲」はいつまでも続くものではない。一種のエネルギの蓄積であり、ガス抜きが必要だ。それはつまり、相互の譲歩と和解である。いかに、互いの利益最大化と損失・リスク最小化を目標に、どのような相互妥協・譲歩案に結び付けていくかという議論だ。ガス抜きができなければ、蓄積されたエネルギーが爆発する。言ってみれば、自然の摂理だ。