今回の家族台湾旅行は、花蓮にも1泊だけ立ち寄る。台北から花蓮までは、高鉄(高速鉄道)で行く。中国語の「高鉄(ゴーテー)」は、中国大陸の常識からすれば、時速200~300kmが当たり前。しかし、台湾の場合はほぼその半分以下。路線の地理状態もあるが、「高鉄」という名には違和感を抱かずにいられない。
高速鉄道などのインフラをはじめ、経済全般においてかつて中国大陸をはるかに凌駕する台湾は完全に逆転負けを喫し、中国に追い抜かれた。中国の経済発展が速すぎるというよりも、台湾の停滞が目立った。その原因の1つは、台湾は民主主義制度の運営に高い取引コストの負担を強いられたことだ。
2024年の総統選を控え、目下の台湾は政治家もメディアも国民もまたもや、民主主義の劇場に熱狂中。本当の国益とは何か、誰もが関心を払おうとしない。ポスト争奪戦の勝ち負けだけは、連日メディアに大々的に取り上げられ、過熱化する。嫌中感情を煽るプロパガンダは概ね成功を収めている。
台湾の大衆、その多くは対中国の敵対心を隠そうとしない。タクシー運転手のAさんが言い放った。「中国の独裁統治が悪い。われわれ台湾の民主・自由は必ず勝つ。善は必ず悪に勝つからだ。戦争になっても、アメリカや日本は正義側に立って、必ずわれわれを助けてくれるだろう」
善悪といった「価値判断」と、強弱や利害関係といった「事実判断」を完全にごちゃ混ぜしている。純朴な「善人」であればあるほど、プロパガンダに騙されやすい。台湾人は本当に良い人が多い。本気でアメリカ人や日本人のことを信じている人も多い。
だから、嘘をつかないで、台湾人に正直に言ってほしい。とりわけ、日本人は日本を犠牲にしてでも台湾を守るつもりはあるのか。麻生氏は嘘をついていないか。台湾人を騙したら、アメリカ人は逃げ切れるかもしれないが、日本人は間違いなく地獄に堕ちるだろう。
違う一面もある。これも台北の某タクシー。日本から来た家族を後部座席に乗せ、私が助手席に座ると、現地人ガイドと思われたようで、運転手Bさんが中国語で切り出す。「後ろに訳さないでね。ここだけの話だけどさ、正直、日本人客は乗せたくない。短距離ばっかり。商売だから、やっぱり長距離とかチャーターしてくれる中国大陸人客がいい。まあ、今ビザの問題で来れないのが残念」
親日云々よりも、やはり稼ぎ優先。運転手Bさんの立場もよくわかる。結局のところ、日本人も台湾人も似たようなものだ――。頭は嫌中、財布は親中。そういう意味で、日台は、同病相憐れむ患者仲間だ。