ファゴットの不調和音、オーケストラの指揮で見る会社組織

 土曜日の夜、コンサート。本日は、世界で活躍する日本人指揮者、大植英次氏がベートーヴェン7番を振ってくれた。地元の上海交響楽団。

58704_2ベートーヴェン7番を振り終える大植英次に、満場の拍手と歓声(2011年6月11日)

 ベートーヴェンといえば、「英雄」や「運命」、「第九」がよく知られ、7番には馴染みがあまりない(私個人的にそうだが)。専門家によれば、ベートーヴェンの場合、奇数番号は大曲、偶数番号は小曲(?)で、7番も、3番の「英雄」、5番の「運命」、そして9番の「合唱付」と並ぶ大曲だという。聞いてみると、ベートーヴェンにしてみれば、とても明るいムードでしかも、リズミカル。

 そして、何よりも、大植氏hの指揮に目を奪われた。個性的で、少々脱日本人的な表情を持つ彼の指揮は切れ味がよく、上海音楽庁場内は、割れんばかりの拍手と「ブラボー」の歓声。

 オーケストラの指揮とは、手と腕の身振り、時には表情で演奏に何時・何を・どうすべきか指示を一つひとつ出していく仕事である。だったら、奏者は指揮者の指示を待って、それに従っていれば良いことになる。そもそも、クラシックはあまり変化を見せない音楽の部類といわれているだけに、妙に納得する。

 実は、とんでもない。たとえば、ある演奏中に、ある個所でファゴットが違う音を鳴らしてしまった。指揮者が慌てて止める合図を出すが、それとほぼ同時に、第2ヴァイオリン首席がその非調和音を目立たせないように、自分の演奏音量を上げる動作を取る。ほんの1秒くらいの出来事で、第2ヴァイオリン首席が見事に指揮者の補完をしてくれた。経営学的にいえば、咄嗟のリスク管理と一種の問題解決である。人事制度上では、このような第2ヴァイオリン首席をどんどん出世させるべきだろう。もしや、彼が指揮者の候補なのかもしれない。

 指揮者は格好いい。丸ごと、オーケストラを動かしているだけに、偉い。総経理も同じ、会社全体を動かしている。でも、オーケストラの奏者全員や会社の従業員全員が、ただただ、指揮者や総経理の指示を待っているだけでは、決して最高の演奏や経営にはならない。不調和音問題を見事に解決してくれる、主体性をもつ第2ヴァイオリン首席のような右腕を何人か確保しておかないと、いずれ問題が発生するだろう。

 中国のビジネス現場では、問題を追及すると、必ず、「ファゴットが違う音を出したのが悪い」になってしまう。ファゴットの問題よりも、問題解決力をもつ第2ヴァイオリン首席がいないのが、最大な問題だ。

 ファゴットの問題を指摘することは、誰でもできる。ただ、それが凡人がやることである。

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