利便性にはコストがかかる、日本の行政利権拡大のメカニズム

 昨日、私が日本の運転免許証更新の行政手続きについて書いたところ、読者からコメントが入り、大変有意義な対話になったと思う。これをサイトに転載する。

<読者Y氏コメント1>

 全般的に言って、マレーシアの行政が日本の行政より効率のいいものだとは、少し想像し難いです。恐らく、免許更新の一点を取り上げて言われているのだと思います。ちなみに中国人は、日本の行政の効率の良さを絶賛しているようですhttp://www.recordchina.co.jp/a85159.html 。マレーシア行政の効率の悪さについて、こんなところで書かれています。 http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=915950&id=7433695 。こんな記事も・・・(題名しか読めませんでしたが)。http://nna.jp/free/news/20081124myr007A_lead.htm

 あくまでネット情報だけなので、私にはマレーシアの実態はわかりませんが、全般的に言って、マレーシアの行政が日本の行政よりも効率が高いと言えますか?是非、立花先生のご意見を聞きたいところです。もちろん、お互いの良いところから学んで切磋琢磨するという考え方には賛成です。

<立花回答コメント2>

 マレーシアの行政の効率が日本より良いという結論付けするつもりは毛頭ない(マレーシアにも問題がたくさんあります)。マレーシアの比較を抜きにしても結構です。日本の行政効率だけについて論じてもいい。私が提示した無駄は存在していませんか。免許更新以外にも無駄を探せばいろいろ出てきますね。生産性向上が実現できれば、日本国民が納めた税金の節約になり、大いに良いことではありませんか。謙虚になろうではないか、日本の行政。米田さんは行政天下りの方なら、公務員の方だったら、大顰蹙を買いますが(大笑)。いかがですか。最後に付け加えますと、マレーシアはもしかすると、日本のように、行政の無駄を創り出す知恵が十分ではないかもしれません。その分、ぜひ、日本の悪いサンプルに学ばないでほしいものです。

<読者Y氏コメント3>

 まず、立花先生が挙げられた通知の必要性についていうと、通知をしないことによって、免許期間切れ運転がどの程度増加するか、その摘発や再更新がどの程度行政に負担をかけるか。これらの測定は意外に難しいと思います。でも、確かに、自己管理ができるなら、それが一番ですから、アンケートぐらいはとってみるべきだとは思います。もう一つは手続き全体の効率ですが、マレーシアとの比較条件は公平でしょうか。 

 例えば、
 (1)日本のほうはデーターベース化が進んでいるがゆえに時間がかかるということはないでしょうか。日本の場合は、全国どこへ引っ越しても手続きが容易にできるがマレーシアではそうではないとか?
 (2)データの正確性が日本のほうが優れているとか?
 (3)日本のほうが、データの改ざん、不正に対する防犯効力が高く、マレーシアよりも偽免許証が作りにくいとか?
 (4)安全講習があることにより、事故率が低いとか?
その辺りに関する評価がないと日本の免許発行手続きの効率が悪いとは言えないと思います。

 速い遅いで言えば、初めて中国の銀行でキャッシュカードを作ってもらったとき、その場ですぐに発行されて驚きました。今はどうかわかりませんが、当時は日本では数日後にやっと発行だったと記憶しています。審査の安全性・確実性の問題もありますが、スピード化、簡素化はユーザにとっては確かにありがたいですね。

<立花回答コメント4>

 米田さん、データの正確性とか、事故率の低減とか、全面論証は可能でしょうし、コストを透明化させ、費用対効果の議論が大変有意義なものになるでしょう。ぜひ、日本国内で検証や議論のアジェンダに上がってほしいものです。

 まずひとつ、免許更新の自己責任というのは、不注意によって失効した場合、再更新で行政に負担をかけるべきではないことはそのとおりです。そこで再更新の手数料割増負担を市民に請求すればいい。さらにいうと、期限遅れの対処は、マレーシアの場合、3か月猶予が付いています。それを過ぎると、運転免許の再取得を義務付けられています。それでもいいと思います(私の記憶はそうです)。

 通知はがきが必要かどうか、単純アンケートを取ることには意味がない。ちなみに、これは、日本の行政の常套手段、利便性という美麗字句を駆使して実質上の自己利権を拡大させる。あったほうがいいという大半の市民が回答するでしょう。利便性を貪るのが人間の本能です。ただ、利便性にはコストがかかる。対価コストの議論に国民を巻き込んだらといいと思いますが、残念ながらやっていません。コストの話をすれば当然行政の利権が侵食される可能性が出てくるでしょう。

 だから常に、利便性や正確性、安全性といった面に市民の目を向けさせようとする。私のブログ記事の論点は、いつの間にかすり替えられる。コストです、コストを語ります。外部の人間として常識に基づいて、私はただざっと見積もったコストで間違っていますか?年間20億円の郵便通知はがきの費用対効果はいかがなものか、これは国会の予算委員会や答弁で議論してもらっても結構なことではないでしょうか。日本国民が「結構ですよ、20億円をぜひ払って、更新期限のリマインド通知してもらったほうが便利でいいですよ」という総意であれば、それはそれで制度の継続実施でいいじゃないでしょうか。

 これは、アンケートの取り方です。

以上 

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コメント: 利便性にはコストがかかる、日本の行政利権拡大のメカニズム

  1. 論点のすり替えと言われたので、反論をしておきます。

    論点はもともと複数ありました。ご自身の記事をもう一度読み返してみてください。

    —————————————————————————-
    「なんと、なんと、更新手続きはわずか10分で終わったのだ。驚いて開いた口がふさがらない。先日日本の免許センターで優良ドライバー(最短時間受講)として更新したのだが、それでも2時間はかかった。」

    「<マレーシア・運転免許センターの場合>
     ① 受付・整理券番号発行 → ② 窓口審査(住所確認)・更新手数料支払 → ③ 新免許証交付

    <日本・運転免許センターの場合>
     ① 免許証更新の通知送付(はがき)→ ② 窓口で受付・旧免許証複写 → ③ 更新・講習受講手数料印紙購入・貼付 → ④ 更新申請書記入・更新状況申告書記入署名 → ⑤ 視力検査 → ⑥ 個人データアクセス用パスワード入力 → ⑦ 写真撮影 → ⑧ 安全教育受講 → ⑨ 新免許証交付
    —————————————————————————
    この部分は全て、日本の免許更新のスピードに関する批判です。
    そこで私は、スピードだけで効率をうんぬんするのは公平ではないと述べた次第です。
    1)引っ越し先でも、同じように更新できる利便性、2)違法なカード取得を防ぐ防犯性、3)免許記載事項に誤りがないこと、4)安全講習により、事故率が低いかもしれないこと。
    どれも重要なことです。

    はがきの費用の問題は、別途述べている通りです。免許切れの運転手が多発した場合の費用の算出は簡単ではありません。取り直しのコスト以外に、警察が違反者を摘発するためのコストも算出しなければなりません。

    下記のサイトでも、免許更新への不満等が書かれていましたが、はがきによる通知に関する不満はありませんでした。
    http://www.tamacom.com/~shigio/misery/renewlicense-j.html

    日本の文化として、事前の通知というのはよくあることです。ガス代金等の滞納などもいきなり止めたりはせず、滞納通知等で通知後、初めて停止されると思います。滞納通知しなければ何億浮くから、その分安くなるという議論はありませんね。
    そういう意味で、事前通知というのは一定の費用はかかるかもしれませんが、必要なものとも言えます。ただ、インターネットの時代ですから、メールとか携帯電話への通知で十分になる日も来るかもしれません。はがき通知をただなくすだけでなく、それが文化的に受け入れられるものか、コストのかからない代替案はないか?そういう考え方が必要でしょう。

    1.  反論はまたまた論点のすり替えの繰り返しです。「ガス代金等の滞納通知」と「運転免許証の更新通知」は、まったく別の性質を有している通知です。同列で比較することができません。滞納行為に対する督促と警告(クレジットカードの支払督促も同様)は事後通知で、運転免許証の葉書は更新行為への事前リマインドです。法的にも前者が債権保全の手段であって、やらなければ、債権者の利益が損なわれるわけでやむを得ず取引コストをかけてやっているのですよ。しかも、ガス納付者全員ではなく、一部の滞納者に対してのみ行っているのです。

       念のため付け加えておきますが、「論点のすり替え」をここで否定的に捉えるのではなく、これも論法の一種ですよ。議論の相手がそのすり替えを受け入れれば、すり替え成立で全然問題ありません。場合によって「論点のすり替え」が建設的な展開に誘導することもありますよ(建設的展開)。ただ、本件について精密なコスト検証といった大掛かりの作業はやはり国レベルの主導でやらないといけないし、性質的にも葉書発送の費用対効果について、最終的に民意を問うイシューなので、そのとき、当然ながら、ご指摘の「文化的要素」も織り込まれたうえでの検証と国民の判断になるでしょう。

       最後にもう一つ蛇足になりますが、論点のすり替えの話。たとえば、米田さんが提示された「ガス代金等の滞納通知」の論点に私が乗ってしまった場合、それが議論が違う道に入ってしまうかもしれません。「ガス代金の滞納通知」は必要か、どうやったら滞納を減少できるか、代金取り立てコストをどう削減するか、といった別の課題が浮上しますよね。もちろんこのような課題も解決できれば、それは大変ポジティブな話です。と思いませんか。

       私の論点をまとめると、以下です。

       ① いかなる公共サービスは利便性等のポジティブ効果につながる一方、コストがかかる。
       ② よって、この利便性の費用対効果の検証が必要である。
       ③ 上記の検証は、異なる価値観を有する国民の最終的判断で多数決される(民主主義の原則、通常代議が行われるが、信任を問う際に選挙で意思表示される)。

       それ以外もっとも手早い解決法は、「ハガキ事前リマインド通知サービス」の選択制です。免許更新する際に、次回の更新期限について、ハガキのリマインド通知サービスを有料オプションとして提示し、市民に選択させればよい。選択した場合、そのコストを本人に払ってもらえばよい。すると、ほとんどの問題が解決できるでしょう。おそらく、これでハガキ発送量が8割か9割くらい減少するでしょう(私の推測ですが)。そもそもハガキをもらっても忘れる人は忘れますよ(笑。

       最後の最後に、米田さんにお礼を言わせていただきます。この「免許証更新事例」の議論は、論点のすり替え、課題の絞り込み、改善案の捻出など、いずれも典型的なアプローチや論法があって、私の企業幹部研修クラスの事例学習に転用させていただきます。ありがとうございました。

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