「脱中国化」の原点を見つめる、民主主義と経済の関係

 台湾の蔡英文総統は6月19日、テレビ電話方式で行われた国際フォーラム「コペンハーゲン民主主義サミット」でスピーチ(ビデオメッセージ)を行った――。

 「民主主義国家は経済の力民主主義強化すべき」との見解を示した蔡総統。コロナ後の経済復興の道のりについて、国際社会はパートナーの選択だけにとどまらず、価値観と経済利益のバランスを図ることが必要だと主張。欧米企業が今後必要とする信頼できるパートナーは台湾にいると述べて投資を歓迎し、共に核心的、多元的、強靭なサプライチェーンを作り上げるよう呼び掛けた(6月20日付、中央通信社・フォーカス台湾)。

 私から一言を補足すれば、「民主主義国家は民主主義の力経済強化すべき」。民主主義と経済は相互補完関係にあるからだ。経済のために、民主主義を無視したり、切り捨てたりするのは本末転倒だ。

 中国共産党の独裁支配下におかれる中国に対する「依存」について、とりわけ日本の経済界は間違った認識をもっている。日本経済は対中依存からの脱却が無理だから、民主主義の原理原則を無視して中国と経済関係を維持せざるをえない。と、このような認識は、経済と民主主義(政治)を対極化する非論理性に基づく。

 民主主義というバッグボーンをなくして、資本主義の自由経済それ自体が毀損する。という点を看過してはならない。権威主義の独裁政治は、資本主義の利益追求欲に漬け込んでいわゆるグローバル経済の美辞麗句を唱えながら、安い労賃や市場を餌にし、資本主義諸国を罠に誘い込む。

 資本主義制度下の企業は利益を追求するだけでなく、民主主義国家の政治もこれらの企業をバックアップしなければ、票を取れない。政権の維持すらできない。独裁政治の権力者たちは、民主主義政治のこの弱みに漬けこんだ。選挙を不要とする独裁者たちは民意を考える必要がないし、恣意的な政策決定ができるわけだ。

 1つの例を挙げよう。財政といえば、独裁政治には民主主義国家のような厳格な国会による予算審査がない。国民の血税を好きなように使える。アフリカ後進国の指導者を買収することもできれば、国際機関に浸透しその意思決定を左右することもできる。さらに、特定の自国企業に莫大な補助金を注ぎ込めば、市場価格を大きく下回る価格(不当競争)で世界の市場を手中にすることも可能だ。

 この通り、彼たちは独裁政治の下で、自由世界の民主主義制度を逆手にとって悪用してきた。確かに一部の企業、経済界や政界がそれで利益を得て潤ったかもしれない。ただ自由主義の経済メカニズム、その全体的な仕組みが破壊されたのである。厳しくいえば、このような個別局所の利益は一種の「間接的収賄」とみてもよかろう。決して容認されるべきではない。ゲームのルールが知らずに書き換えられたのである。

 トランプ大統領はこの本質を見抜いた。そして動き出した。だが、資本主義・民主主義国家の既得権益層が反発する。中国から安い製品を買って何が悪いかと。なぜ、安かったのか。それは完全に自由主義経済の競争メカニズムに基づき、公平な競争から生み出された安さではない。その安さは自由主義経済の原理原則や公平ルールの毀損を代価としていた点を決して看過できない。

 この侵食プロセスがこれ以上進めば、いずれ独裁政治が民主主義に基づく自由経済を完全に掌握することになろう。自由世界をある日奴隷化することにもなろう。だから、経済をみては政治を語らずという姿勢をもうこれ以上容認することはできない。ここで決着をつけなければならない。その唯一の方法は、独裁政権との棲み分けにほかならない。つまり、「脱中国化」「脱中共化」である。

 これからの世界は、しばらくコストが上がるかもしれない。そこからは健全な自由経済のメカニズムで合理化や公平な競争をもって、コストを引き下げていけばいい。苦労はするが、奴隷になることはなくなる。

 「民主主義国家は経済の力で民主主義を強化すべき」と蔡総統がいう。思うに、双方向的に民主主義の力で経済を強化し、民主主義だからこそ自由経済を強化することができる。ここが着目点ではなかろうか。

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