【事例】修理?交換?プールのポンプがまた壊れた

 日課の水泳が今日できないのは、プールの工事が入ったからだ。頻繁に故障するポンプはやっと、今回新品に取り換えることになった。実は長いストーリーがあった。

 古い家であるが故に、設備は旧式が多くて経年劣化も進んでいる。プールのポンプはよく故障する。年に2~3回は壊れる。壊れると工事屋を呼んで修理してもらうのだが、しかし回数を重ねると修理代が馬鹿にならない。気がつけば、新品交換の代金と変わらないじゃないかと。工事屋も新品交換したほうがいいと推奨している。

 それでも大家さん(奥さん)が修理に固執している。メンテナンスの費用は家主負担で当然意思決定も家主であるから、うちは出しゃばってあれこれ言う立場にない。先日、またもや壊れた。例によって修理を依頼しようとしたところで、あまりにももったいなくて馬鹿馬鹿しいので、旦那さんのほうに連絡してみた。すると、「修理は不要、すぐに新品交換」と即決。

 奥さんのほうはおそらくこう考えたのだろう。「何回も修理してきたので、今さら新品を買うのがもったいない」。つまり積み重ねてきた修理代金がたとえ新品代金を上回っても、投入した代金がもったいないから切り捨てられない。

 埋没費用(サンクコスト)とは、回収不能となった投下資金のこと。それを惜しんで引き続き資金を投下してはならない。継続投下からは利益が生まれないどころか、損失を拡大させるだけであるから、損切りが必要だ。経営者である大家さんの旦那さんは多分この原理を知っているから、新品交換を即決しただろう。

 しかも、新品は2年間の無料保障がついている。良かった。

 「経済人(ホモ・エコノミクス)」とは、自己の経済的利益を極大化することを唯一の行動基準として経済合理的に行動する人間の類型をいう。経済学も基本的にこれを前提にしている。ただ、実際は人間は誰もが経済人ではない(たとえば、大家さんの奥さん)。そこで、行動経済学の出番だ。人間の「感情によって合理的な判断が歪む」性質を研究する学問である。

 「情」「理」があって、情が理を歪めることがしばしばある。

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