台湾戦争介入、誰のために戦うのか?日本人の深層心理

 台湾戦争に、日本は介入する可能性があるとされている。

 何よりも、台湾戦争の危機に乗じて、日本が自国の防衛プレゼンスを強化する。これは良いチャンスかもしれない。大雑把に言えば、アメリカに払ってきた防衛予算の内製転用だ。防衛産業の興隆は日本経済を牽引する一端を担ってくれれば、大変ありがたい。

 問題は、生産(仕入れ)した武器弾薬の用途だ。朝鮮半島を想定するならともかく、中国との戦争に当てるとなると、それは自殺行為に等しい。

 日本政府は台湾が中国の一部であると公式に認めている以上、台湾戦争に参戦した場合、大義名分が立たず、少なくとも中国からは「中国侵略」とみなされるだろう。そうした意味では、中国本土攻撃も台湾防衛も性質は変わらない。

 これが一番大きなポイント。言ってみれば「第二次日中戦争」「第三次世界大戦」になるわけで、いちかばちかの賭けだ。日本が戦勝した場合、台湾を再占領できるのか?メリットは?逆だ敗戦になった場合、沖縄占領と東京裁判で済まされるだろうか。そして天皇陛下の立場は?

 中国と台湾は、どんなことがあっても、同じ言語と文化を共有する同族。これは紛れもない事実だ。その戦いに他人にあたる日本が首を突っ込むとは賢明な行動といえるのか。中国は台湾進攻する場合、同族の情があっても、日本をアタックするとき、なんら情もない。むしろ「恨み」だけである。

 繰り返すが、国益を考える上で、日本が介入して戦争に勝った場合の利益と負けた場合の損失、天秤にかけてみるべきだろう。アメリカはどうだろう。最大のリスクは、グアムと第二列島線。だから、日本と第一列島線で損切りするのが彼らの打算だ。

 補足すると、第二次世界大戦後の主要戦争で、アメリカが明確に勝ったのは、湾岸戦争くらいだ。朝鮮戦争は未決着で、ベトナムにもアフガニスタンでタリバンにも負けている。ウクライナではロシアとの対戦から逃げている。そんなアメリカが本当に中国と戦えるのか?勝てるのか?

 もしや、アメリカは日本を戦争の最前線に突き出すつもりではないのか?台湾はどんなに頑張っても1か月持つかどうかで、日本なら半年は持つかもしれない。だから、ウクライナになるのは台湾でなく、日本だったりするかもしれない。繰り返しているが、日本は自国の国益、損得勘定。よく考えたほうがいい。

 人物的には保守派の評価を別として、新聞記者・望月衣塑子氏いわく「勝てない中国との戦争に絶対加わるべきではない」論には賛同だ。「勝てない戦争」に加わるほど馬鹿なことはない。たとえ「勝った」としても、どのくらいのコストがかかるか、そのコストに日本人は耐え得るか、まず議論する必要があろう。

 肝心なことに、戦争介入の動機に触れてみたい。

 中国の対日感情が「恨み」だとすれば、日本の対中感情は「妬み」である。中国に追い越された日本は、アングロサクロンに頭を下げても、アジア・黄色人種の中でトップに立つゆえの(自認)優越感が毀損し、それが受け入れがたいことである。

 太平洋戦争は、日本人が黄色人種としてアングロサクソンを凌駕する試みに挑む壮大な実験場だった。それが惨敗した。戦後の日本は、白人に勝てないという事実を受け入れ、鬼畜米英から一転してG7の唯一アジア国になり、ファイブアイズやらNATOやらとにかく白人の群れに末席ながらも名を連ねるのが唯一の生き甲斐だった。

 しかし、中国がぶち壊しに入った。

 軍事的に中国が台湾を制圧し、アメリカを負かした場合、それは黄色人種がアングロサクソンを凌駕するというかつての大日本帝国の夢が、中国が日本の代わりに日本の代理によって、実現したことになる。これは日本人がもっとも受け入れがたい事実である。

 そうした場合、台湾戦争への日本介入は、台湾のために戦うのでもなければ、米国のために戦うのでもない。日本のために戦うことになる。戦争の勝敗における経済的損得の算段や理性よりも、むしろ感情で動く行動経済学分野の研究課題にあたる。

 これは、多くの日本人、特にいわゆる保守派に属する人たちの潜在意識ではないかと思う。彼たちの中国に対する「妬み」は様々な場面で滲み出ている。これは深層心理学分野の研究課題としても取り上げる価値がある。

 しかし、戦争になったら、経済的対中依存はどうするのか?ひいていえば、経済戦争における様々なシリアスな現実問題、生活コストの大幅アップはまだしも、サプライチェーンや物流の寸断、産業の毀損、日本人は生活を営むうえで、多大なる支障・損害を蒙り、ないし致命的ダメージを受けたところ、ただでさえ貧困化する日本社会は参戦のインパクトに耐え得るのか。

 現実と理想のギャップ、理性と感情のギャップ、多くの日本人は今や、声高に反中を唱えながらも、ひたすら、このジレンマから逃げ回っている。

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