外国人が日本を絶賛する本当の理由

 私の経験談だが、外国人と日本の話題になると、基本的に彼らの口から出てくるキーワードは、決まっている――。寿司、桜、富士山、街が清潔、製品の品質が良い、サービスが良い、日本人は丁寧で礼儀正しい…。

 これは日本にある程度働いたり、住んだりする経験のない外国人の世界である。キーワードの内容は、いずれも日本以外の諸外国にない、あるいは希少価値のものばかりで、まさに非日常的な、ロマンチックな世界である。言ってみれば、「Japan」はディズニーのようなテーマパーク、「夢の国」なのだ。

 「Wow」という驚嘆は、まさにその表れだ。「ニッポンはすごい」、日本を絶賛する外国人は、たびたびメディアに取り上げられるが、基本的にディズニービジター(来園者)タイプばかりではないだろうか。ミッドナイトを迎える前に、彼らはシンデレラの如く仮面舞踏会から退場し、日常世界に戻るのである。

 一方、ディズニーの楽屋や裏側はどうなっているのか、ディズニーの着ぐるみキャラクターの中身(スタッフ)はどんな人か、男か女か、彼・彼女たちはどれだけの暑さに耐えて汗だくでショーを演出しているのか、これらにはディズニー来園者は、軒並み興味を示さない。いや興味を持ってはいけないのだ。夢の国がそれで崩れてしまうからだ。

 私は外国人と、日本社会の本質、いわゆる『菊と刀』(ルース・ベネディクトによる、日本の文化を解明した文化人類学の名著)の世界を語ろうとすると、軒並み、彼らは話題から逃げ出そうとする。「夢の国」を壊されたくない、という彼らの自己防衛なのだ――。

 非日常の中に存在する日常に興味をもたないのは、非日常を非日常のままにしておくためだ。

 故に、日本という非日常への外国人の絶賛を、日本人としては日常レベルで受け取っていいかどうか、それぞれの判断に委ねるしかない。来る日も来る日もディズニーの裏側で辛酸を嘗めて苦戦する日本人は、たとえ非日常に対する賛辞であれ、日常の苦痛を紛らわすための麻薬になれば、それなりの意味と価値もあろう。人間には、現実逃避や自己陶酔が必要なのだ。

 ドイツの調査会社インターネーションズ(InterNations)が発表した、外国人駐在員が住みやすい(にくい)・働きやすい(にくい)国・地域のランキング「エクスパット・インサイダー(Expat Insider)」※2023年版によると、マレーシアは世界ベスト4位、アジア1位。一方、日本は世界でワースト10位。

 寿司や富士山は、在住外国人にとって日常の絶賛対象にならないようだ。指摘してきたように、日本は見せるための「ディズニー国家」だ。

 ※このランキングは、181か国・地域で生活する171の国籍の外国人1万2000人余りを対象として、◇生活の質、◇定住の容易度、◇海外勤務、◇個人収支、◇生活コストの5項目を評価し、点数化したもの。なお、エクスパット・インサイダーの発表は今年で10回目となる。

 同ランキング(2023年版)のトップ10は以下の通り。トップ10にはアジアから4か国がランクインした。

 1位:メキシコ
 2位:スペイン
 3位:パナマ
 4位:マレーシア
 5位:台湾
 6位:タイ
 7位:コスタリカ
 8位:フィリピン
 9位:バーレーン
 10位:ポルトガル

 一方、同ランキングのワースト10は以下の通り。

 44位:日本
 45位:ニュージーランド
 46位:マルタ
 47位:イタリア
 48位:南アフリカ
 49位:ドイツ
 50位:北朝鮮
 51位:トルコ
 52位:ノルウェー
 53位:クウェート

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