マレーシア移住(28)~失敗の本質、職人がなぜ商人になれないのか?

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 職人ではなく、商人になり、あるいは二刀流になる。商人といえば、中国人・華人。マレーシア華人のパフォーマンスをまず見てみよう。

 2022年12月のある日、クアラルンプール市内の料理店で、マレーシア中華総商会(ACCCIM)事務総長の蔡文洲(チャイ・ウォーン・チュウ)弁護士と会食し、さまざまな情報を共有する機会を得た。

 中華総商会は、普通の商工会議所ではない。マレーシア日本商工会(JACTIM)の会員数は日系企業616社(2022年6月末現在)だが、マレーシア中華総商会の会員数は10万を超えている。日本商工会の170個分だ。マレーシアの華人企業・財閥だけでなく、中国本土や台湾、香港、シンガポール等の中華系企業がすべて網羅されている。

 東南アジアでは、インドネシアやタイ、フィリピン、ミャンマー等の国も華人が多いが、現地化というか、同化度が高い(名前を見れば分かる)なか、華人という「ストレートな存在感」を保持しているのは、華人国家のシンガポールを除いて、マレーシアだけである。

 マレーシア国民の20%強が華人だが、彼たちのほとんどは、中国語名(発音・漢字)を使っており、独自のコミュニティを持っている。マレーシアは多民族の融合とはいえ、実はきれいに棲み分けしている。華人コミュニティも「内・外」の区別があって、華人はみんな流暢なマレー語を操るにもかかわらず、華人同士は基本的に(特に内緒話)中国語で意思疎通し、それだけ排他的とも言えなくはない。

 中華総商会はある意味で、アジア華人ネットワークのハブ・中枢と言っても過言ではない。経済だけでなく、政治もだ。そもそも経済と政治は不可分であるからだ。政治面では、国内では国王や首相、大臣、議員、政治家を網羅し、外国となれば、大使館だけでなく外国政府とのつながりも強く、蔡事務総長自身もマハティール元首相の中国訪問を共にするほどの「チャイナ・ブレーン」である。

 もちろん、情報の量も質も半端ない。蔡事務総長との会話で 普段仕入れた様々な断片的な情報、事象は一気につながり、論理的な裏付けができ、「なるほど」の連発だった。世界が向かう方向を本質的に捉えるには、上辺のメディア情報(プロパガンダ多し)や一般セミナー、シンクタンクのレポートだけでは絶対に無理だ。そう痛感した瞬間でもある。

 では、海外にも日本商工会がある。それが役に立っていないかというと、そんなことはない。役に立っている。日本・日系企業向けに非常に丁寧な情報提供に取り組んでいるし、「販路開拓」にも力を入れている。しかし、やはりその「販路開拓」が気になる。どうしても「商材」にフォーカスしすぎているように思える。

 「こういう商品(What)をどこそこ(Where)で売りたい(Sell)」よりも、「誰(Who)がどんな理由(Why)でいつ(When)どのように(How)買ってくれる(Buy)か」だ。「5W1H」の分布。後者がより重要だ。漠然と前者しか見えない、なおかつ後者の議論が一向に進まないようであれば、時間の無駄だ。「商材」よりも「購買動機」がはるかに重要だ。

 日本人にも成功例がある。例えば、食関連で海外で成功している松久信幸氏のNOBU。だが、氏はもう日本人とはいえない(これは誉め言葉)。NOBUを高く評価する日本人も少ない。だから、松久氏が成功したのだ。成功の原因を理解する日本人も少ない。だから、日本人(企業)は海外で成功しない。日本人で海外で小銭を稼げたのは日本人同士がほとんど。華僑のようなスケールや品質にはならない。

 海外事業について、某友人がこう言う――。

 「日本人のサバイバル能力が低すぎるので、日本人と組んでも共倒れしかねない。〇〇系現地人と組んでライセンス関係は全部任せて、△△系現地人にマネジメントさせる(ミドルマン)というのがベストだった。ここで気付くのは、純日本人に入り込む余地は無い、ということだ」

 「大半の華僑の能力とネットワークの力は、日本人の15倍くらい強力だ…。仮に日本人をビジネスの中核に入り込ませたとしても、日本人なりの付加価値を注入するだけで、それは日本人感性の中での付加価値であって、現地人にとっての付加価値ではない(過剰価格に過ぎない)」

 実体験に基づく本質の指摘である。失敗の本質である。

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