● 「負け方」の選択
私は実務家で現実主義者だ。「負け」が確実になった場合、いかに被害の少ない「負け方」を選ぶかに全力を挙げる。国家も企業も個人も同じことが言える。
被害は、経済と体面という2つの毀損を含む。例えば、国家の場合。最後の一兵卒まで戦い、惨敗した場合、「降伏」だけでなく、交渉の余地すらない「無条件降伏」で利益、体面と地位の全損になる。だったら、敗色濃厚になった時点で、大局観を持ち出し、和解交渉に乗り出したほうが全然有利だ。「交渉ができるうち」というタイミングの把握が大切だ。
太平洋戦争なら、原爆投下どころか、ポツダム宣言の前に日本が交渉に応じれば、「負け方」が全然違う形になっていただろう。問題は、日本人が「負け」という「事実判断」を、「悪」という「価値判断」にすり替え、さらに「玉砕」という「真」を「善」「美」にすり替えたことだ。
今の日米欧・西側もまた然り。ウクライナの敗戦、中国による台湾統一、米国の2位転落といった明らかになった「事実判断」を「米国が善、中露が悪」という「価値判断」にすり替えた。日本人的には、「あってはならないことだ」という。一方、「ことがあった場合」の対処に触れようとしただけで、「反日」「反自由・民主主義」とレッテルを貼られる。
歴史には「もし」がない。しかし、歴史は、繰り返す。
● 最悪の負け方とは?
「負け方」の賢い選択以前の問題で、「自壊」という最悪の負け方がある。論理的な負けで、自らの論理で自らの主張を否定してしまう。特に美辞麗句や他者批判を得意とする者が陥りやすい罠である。例を挙げよう。アメリカは中国系の動画投稿アプリ「TikTok」の米国内での利用を禁止しようと、立法を進めている。
自由主義、市場経済を掲げるアメリカはなぜ、TikTokという民間企業のサービスを禁止するのか?中国だってフェイスブックを遮断しているのではないかとアメリカが反論するが、その反論から論理の破綻が生じる。中国はいわゆる独裁専制国家であるのに対して、アメリカは自由・民主主義国家である。アメリカはいざ中国と同じことをやっていると、説明がつかなくなる。
なぜ、TikTokを禁止するのか、アメリカは「国家安全保障」という理由を挙げるが、中国も実は同じ理由でフェイスブックを遮断しているのではないか。そこで、本質が見えてくる。外国のSNSは自国の安全保障上問題になることがある。その場合は、遮断や禁止といった措置を取らざるを得ない。そうした意味で、アメリカも中国も、同じ目的で同じことをやっている、それだけのことだ。どっちも悪くないわけだ。
結論は単純明快――。民主主義の実態は、独裁専制と何ら変わらない。民主主義が独裁専制の一種に過ぎない。「民主vs独裁」の戦いは、見せかけで、いわゆる民主主義は美辞麗句を施した詐欺である以上、名実一体の独裁専制よりも欺瞞性を有し、悪質である。
「独裁という独裁」と「民主という独裁」という2つの独裁があり、独裁は統治の基本形態である。アメリカは、美辞麗句の論理が自壊し、最悪の負け方を取った。